⑪ ロヒール・ファン・デル・ウェイデン作《七秘蹟祭壇画》と《七秘蹟タペストリー》はじめに現在アントワープ王立美術館に所蔵される《七秘蹟祭壇画》〔図1〕は、ブリュッセルを中心に活躍し名を馳せた画家ロヒール・ファン・デル・ウェイデンが、トゥルネ司教ジャン・シュヴローの依頼により1440~45年頃に制作した三連祭壇画である(注1)。画面中央にはキリストの磔刑図が大聖堂内部に展開され、その後方に設えられた主祭壇へは聖体の秘蹟が、そして側廊にあたる両翼部の礼拝堂には、左翼部に洗礼、堅信、告解、また右翼部には叙階、結婚、終油の七秘蹟図像がそれぞれ描き込まれる。堅信を施す司教として描かれた人物〔図2〕は、本作の依頼主トゥルネ司教ジャン・シュヴローの肖像とされる(注2)。シュヴローは、自身が司教を務めるトゥルネ大聖堂の司教礼拝堂へ本祭壇画を、同テーマのタペストリー(《七秘蹟タペストリー》)とともに奉納したと目される(注3)。さて、そもそも七秘蹟とはローマ・カトリック教会が制定する、「神の隠れた神秘」を「目に見えるしるし」として示す儀式をさす(注4)。秘蹟が七つ(洗礼、堅信、告解、聖体、叙階、結婚、終油)と定められたのは11世紀のペトルス・ロンバルドゥスの『命題集』によるが、図像の発生は13世紀のイタリア、その後スペインやフランドル、イングランドなどヨーロッパ全域に流布してゆく(注5)。七秘蹟図像は、受難図、特に磔刑図と組み合わせられ、《七秘蹟祭壇画》もその系譜に属す。一方、七秘蹟に関するタペストリーは、旧約聖書に典拠を持つ場面も登場し、予型論が意識された構図が特徴的である。《七秘蹟タペストリー》は、オリジナルこそ失われてしまったが、同様の下図を用いて織られたとされるものが、断片的な状態でメトロポリタン美術館(ニューヨーク)〔図3、4〕、ヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン)〔図5〕、そしてバーレル卿コレクション(グラスゴー)〔図6、7〕の各美術館に所蔵される(注6)。これらの断片は、織り方や様式、図像的特徴などから、15世紀中葉、トゥルネで制作されたとされる(注7)。《七秘蹟祭壇画》と《七秘蹟タペストリー》は、図像の依頼主やテーマ、奉納先が共通し、制作時期も制作地域も近接するなど相互の図像研究において非常に重要な位置にあることは明らかである。しかしながら、先行研究においてはこれらの比較分析による礼拝堂展示プログラムに関する研究研 究 者:立教大学大学院 キリスト教学研究科 博士研究生 本 橋 瞳― 111 ―
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