鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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1 《七秘蹟タペストリー》の全体像はほとんど試みられず、研究も十分とは言い難い(注8)。そもそも当該タペストリーに関する研究自体、近年特に蔑ろにされており、原型のコンセンサスさえ築かれていない状況にある。そこで本研究では、《七秘蹟祭壇画》と《七秘蹟タペストリー》の図像分析と図像解釈を目的とする。また本研究にあたっては、とりわけ両作品の礼拝堂空間への展示プログラムを重要視し、三次元の礼拝堂空間全体として両作品の図像研究を行う。このような試みは、確認する限り皆無であり、新知見が開かれる可能性が大いにある。考察の進め方としては、まず図像と先行研究を頼りに《七秘蹟タペストリー》の原型を推定し、次にタペストリーに表された図像の特徴を元に展示場所となった礼拝堂の形状や展示方法などを検証した上で、展示プログラムの想定図を作成する。そして三次元空間全体として両作品の図像比較と図像分析を行ったのち、最後に依頼主を取り巻く歴史的背景を踏まえた図像解釈を行う。結果として、《七秘蹟祭壇画》と《七秘蹟タペストリー》が、当時の教会会議を巡る依頼主の宗教的・政治的状況が両作品の成立とテーマ選定に霊感源を与えながらも、図像の特徴については展示プログラム全体が考慮され綿密に練られたことを明らかにしたい。ニューヨークの断片は、現状として旧約聖書と七秘蹟のテーマが上下構造となるよう接合されている〔図3、4〕。まず「父なる神によるアダムとエヴァの結合とダヴィデへの塗油」の下部へ「結婚と終油」が、そして「ナアマンの浸水」の下に「洗礼」が位置する。「ナアマンの浸水」の、向かって右には「エフライムとマナセを祝福する長老ヤコブの図」が接合されるが、この下部、すなわち「洗礼」の右横には、洗礼の次の秘蹟である堅信の図像が来ることが予想され、その図像がヴィクトリア&アルバート美術館(ロンドン)所蔵のタペストリー断片と目される〔図5〕(注9)。さらに堅信図に登場する司教の、画面右側から伸びる三角形と背景パターン文様は、バーレル卿コレクション(グラスゴー)所蔵の複合的な断片〔図6〕に表された、杖を持つ司祭の右肩部分と連結できる。またこの司祭の持つ杖は、同断片の兵士の足元にまで達する装飾的な隆起物と連結でき、さらにこの隆起物の右横に位置する楕円状の突起が、同断片の左端の間柱の上部と接続されることで、間柱から老若男女の祈祷者までが丸ごと連結できる(注10)。以上の結合については、初めて全体像の復元を行ったロリマーが提唱し〔図8〕、― 112 ―

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