⑭世界美術史形成を背景とする「日本現代美術」の在処─日英二言語領域の美術批評の比較研究─研 究 者: ライデン大学人文学部大学院ライデン大学社会芸術研究センター 博士課程 近 藤 貴 子本研究は、筆者が進める博士論文研究「世界美術史形成を背景とする『日本現代美術』の在処」の第一部を成す戦後から1960年代末までの日英二言語領域の日本現代美術批評の比較分析を中心とする。特に、日英二言語間の言説空間に存在する「不可視化した溝」を明示し、日本現代美術の概念構築、分類体系上の隔たり、相違や不整合から「日本現代美術」の在処を探究するものである。21世紀の幕開けを目前にし、世界のグローバル化を意識した日本現代美術論が国内外で展開され始めた。国内では椹木野衣著の『日本・現代・美術』(1998)や水戸芸術館で開催された『日本ゼロ年』展(1999)を契機に世界を舞台にする日本の戦後美術、また日本現代美術に関する関心が高まりを見せ始める。また欧米ではゲッティ・リサーチ・インスティテュートにおける『Art Anti-Art Non-Art: Experimentations in thePublic Sphere in Post War Japan 1950-1970』(2007)以降、急速に日本の戦後美術への関心が集まり始め、その意義を問い始めた。特に近年はニューヨーク近代美術館での『Tokyo 1955-1970: A New Avant-Garde』(2013)、グッゲンハイム美術館での『Gutai:Splendid Playground』(2013)等が開催され、日本の戦後美術ヘの関心は更に高まっているように見受けられる。これらが代表する日本現代美術の展覧会では、主に1950年代から日本において西洋の現代美術に比肩する表現形態が日本に存在した、という日本と西洋双方からの遡及的な視点が基盤になっている。しかしながら、その双方の見地は合致しているのだろうか。また、日本現代美術を語るとき、双方は同一の概念を指しているのだろうか。欧米における日本の戦後美術への属目の背景には、一方でポストモダニスム、ポストコロニアリズム、また21世紀初頭から関心を集め始めた世界美術史の形成がある。世界美術史は英語圏を中心に展開する美術史の中でも新しい分野になり、西洋において概念化された「美術」を基準に「美術」と認められる表現形態を世界各国、各地から集めることにより構築される。この世界美術史を構築する主体は西洋にあり、そこに寄せ集められる美術は、日本からであれば「日本現代美術」ではなく伝統的「日本美術」の延長線上にある「現代『日本美術』」として理解され、多くの場合「美術」― 146 ―
元のページ ../index.html#157