「正義」、「法」とされ、彼女たちの足下には「裁判官」を表す男性の頭部が置かれている。さらに帯状の塊がこれら3層を大まかに分けている。このような構図やモティーフの変化が具体的にいつ、そしてなぜ生じたのか、その原因を明らかにするような証拠は見つかっていない。完成段階(最終版)〔図1〕では転写スケッチの構図やモティーフを引き継いでいるが、線が際立つ描写になっている。この線の描写とは画面下半分を占める緩やかにうねりながらモティーフを取り囲む線の塊、及びモティーフを形作る明瞭な輪郭線である。《哲学》、《医学》の描写では線が目立たず、これら2作品と《法学》の構図にもまた差異が見られることから、《法学》の制作に際して画家の関心に何らかの変化が生じていたことは確かである。《法学》は1903年の分離派展に展示された際に作品解説がなされなかったことも関係して、法に対するクリムトの悲観的な考えや罪の意識、復讐等の様々な解釈を引き起こした(注11)。何れにしても文部教育省の要求する大学の中心を成す伝統ある法学部の重要性とその理想化、そして帝国の最高学府としての誇りを表明するものではなかった(注12)。4《法学》の素描シュトローブルの素描集に分類されている《法学》に関連する素描はおよそ112枚あり、蛸のモティーフを除く全ての人物像に該当する素描が残されている。素描の数や描写の状態から、これらの素描が制作に際してクリムトが抱いていた何らかの関心を探求する場として機能していたと考えられる。《法学》の素描には、《医学》に見られた完成作に描かれている人物像との直接的な関係を見出すことが難しい、あるいは多様なポーズを多彩な角度から捉えた人物素描も、《フリーズ》の人物素描に特徴的な線それ自体を追求した形跡の何れもない。完成段階の人物像を想起できる、あるいは完成段階のポーズに近い状態の人物像が細かな点に変更を加えながら繰り返し描かれている点が《法学》の素描の特徴となっている。中でも中段の「エリニュス」〔図6〕と上段左端の「真実」〔図7〕に関連して制作された裸体の女性素描群がこの特徴をよく示している。これらの素描はどれも正面を向いて立っているポーズが共通しているものの、頭部や身体を捻る向き、そして手の位置が細かく変えられ、まるでリズミカルに踊っているかのような印象を観者に与える〔図8-11〕(「エリニュス」に分類されている素描)、〔図12-17〕(「真実」に分類されている素描)。シュトローブルもまた「エリニュス」に関連する準備素描のポー― 214 ―
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