用しながら、ラヴェッソンは次のように述べる。素描芸術の秘訣は、それぞれの対象のなかに、その全表面にわたって、中心的なひとつの波が表面的な多くの波に発展するように、その生成軸(axe générateur)ともいうべき曲がりくねった線が運動していく独特なあり方を発見することである(注7)。注目すべきは、ルネサンスの芸術家たちの素描観が「蛇のような線のうねり」、すなわち、眼に見える外面的な要素に依拠しているのに対し、ラヴェッソンが「生成軸」という概念を持ち出している点である。この「生成軸」の存在については、さらなる説明が加えられる。細部を調和のとれたまとまりへと結びつける線の集まりは、輪郭線から成るのではない。そうではなくて、輪郭線が依拠する一種の生成軸、三次元の空間において波打つ軸から生成するのである。このうねりを肉付けすることで際立つ光と陰の戯れによって、それをよりよくつかむことができる(注8)。ラヴェッソンは、彫塑的形態の境界として、物と物のあいだ、あるいは物と空間のあいだに引かれる輪郭線に対して、対象のうねりの中心にある、目には見えない軸の存在に言及している。幾何学や解剖学といった規範に基づくのではなく、対象のフォルムを、観察によって生き生きと捉えるべきという主張は、やがて印象派の画家たちによってもたらされるスケッチの美学と共鳴するものでもあるだろう。また、報告書の最後では、装飾デッサン教育についても論じられている。ラヴェッソンは装飾デッサンを人工的なフォルムに基づくものとしながらも、人物デッサンは、動物や植物、風景といったモティーフにも応用できるとの考えから、素描教育は、その目的にかかわらず、常に人物デッサンから始めるべきと結論付けている(注9)。ラヴェッソンが生命力あるデッサンを提唱した一方で、1853年の改革においてそれと真っ向から対立する、「幾何学デッサン」の重要性を主張したのが、彫刻家ウジェーヌ・ギヨームである。ギヨームは、パリの国立美術学校の学長も務めたアカデミスムの彫刻家だった。19世紀のフランスのデッサン教育においては、版画や石膏モデルに基づいたデッサンと幾何学デッサンの両方が混在していたが、1880年代頃には、幾何学デッサンの占める比重が大きくなっていく(注10)。その引き金となったギヨーム― 282 ―
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