(1)4つの展覧会の概要㉗ 近現代における雪舟評価の形成過程とその背景研 究 者:東京藝術大学大学院 美術研究科 博士課程 和 田 千 春はじめに本論の目的は、近代以降の雪舟評価の形成過程とその背景を、雪舟をテーマとした展覧会に注目して考察することにある。明治期以降の雪舟評価の形成についての研究は、島尾新(注1)・山下裕二(注2)・綿田稔(注3)氏らによって行われている。先行研究では、美術史研究や一般書籍の中での雪舟に関する記述にみられる雪舟認識や称賛の、美術史学的な問題点等を指摘し、等身大の雪舟像を構築することの重要性を主張してきた。さらに明治期から20世紀までに刊行された、主な美術全集や美術雑誌など10件に掲載された雪舟作品の目録が作成され、雪舟の真筆作品が絞り込まれていく過程が明らかにされている(注4)。また筆者は岡倉天心の雪舟論が、近代以降の雪舟研究や評価に重要な役割を果たしたのではないかと考えられることを指摘した(注5)。これらを踏まえ本論では、先行研究では詳しくは論じられていない、新聞社や美術団体・財界と、美術史研究などが連携して展開した雪舟を顕彰する展覧会が、雪舟評価形成に果たした役割について考察する。この考察を通して、19世紀末に始まる、特権階級などの一部のエリートによる雪舟評価から、1930年代の雪舟評価の大衆化へという流れとその背景を指摘したい。なお、本論で取り上げる雪舟をテーマとした5つの展示企画に出品された、現在国宝・重要文化財指定を受けている雪舟画の目録、並びにそれらの作品が最初に収録(言及)された幕末明治期(19世紀後半)以降の美術書籍・雑誌名と刊行年を、本論末尾の表にまとめている。適宜ご参照いただきたい。一 特権階級などによる雪舟評価 ─1900年代から1920年代の雪舟をテーマとした4つの展覧会─ここでは、雪舟をテーマとした4つの展覧会に注目し、真筆作品の出品状況と雪舟を評価する人的ネットワークに注目して分析する。ここでは、1906年に開催された2つの雪舟展(会場は東京帝室博物館と井上馨邸)、1918年開催の日本美術協会第58回美術展覧会古画之部(通称雪舟会)、1923年開催の雪舟傑作展覧会の概要を整理する。― 292 ―
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