鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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東京帝室博物館で1906年に開催された「雪舟流及雲谷派絵画展」(以下、雪舟流展と略称)は、5月14日から6月4日まで(一般公開は5月15日から(注6))開催された特別展覧会の、甲・乙・丙之部に分かれた部門の中の乙之部における展示である(注7)。展覧会図録はないが、出品目録が残されている(注8)。後述するように、この展覧会に出品された雪舟作品の質量はともに、戦前に行われた雪舟に関する展示企画の中では最大規模のものだったことは注目される。次に井上馨邸で開催された「雪舟四百回遠忌会」(1906年)についてである。この展示は、萩藩藩士出身で農商務・大蔵・内務・外務大臣などを歴任した井上馨(1836~1915)が、雪舟400回忌を記念し、雪舟を尊崇する同志を集め、自邸で私的に催した雪舟展である。この展覧会の開催趣旨の概要と出品目録、出品作品全てのモノクロ図版は、古作勝之助編『雪舟画粋』(注9)にまとめられている。これによると、1906年が雪舟400回忌に当たるのを機に、雪舟を高く評価する愛好家たちが、自らが所蔵する雪舟作品を持ち寄って、井上邸で展覧会を催し、画聖雪舟の遺徳を偲ぶことにしたという。展示期間は、1906年6月2日の午後1時より4時迄で、案内状をもらった人・一人限りの招待制となっており、一般公開はされていない。招待制の形態をとったのは、後述するようにこの展示が、井上馨を中心とする三井財閥の人的ネットワークを強化する目的で開かれた私的な鑑賞会だったためではないかと考えられる。1918年開催の日本美術協会第58回美術展覧会古画之部は、当時の新聞記事や雑誌記事などから雪舟会と呼ばれていたことがわかる(注10)。展示期間は4月11日から5月10日までで、雪舟筆とされる作品79件を含む参考品出品目録が、『日本美術協会報告第二次』2輯(1918年)に掲載されている(注11)。また講演会を2回行い、研究成果の普及にも取り組んでいた。講師は東京美術学校の今泉雄作、早稲田大学の紀淑雄、帝室博物館の溝口禎次郎、日本美術協会議員の高橋義雄、東京帝国大学の瀧精一であり、瀧を除く4人が雪舟に関する講演を行ったという(注12)。最後に「雪舟傑作展覧会」(1923年開催)は、東京美術学校校長を務めた正木直彦が実質的に主導する雪舟遺跡保存会が主体となって立ち上げた「雪舟祭」の関連企画として、日本美術協会主催の第64回美術展覧会の期間最後の5日間(5月6日から10日まで)、日本美術協会列品館参考室で開催された展覧会である(注13)。東京朝日新聞の記事によると「雪舟祭」は、雪舟に関る遺跡の保存と顕彰活動の一環として、1923年から毎年行う計画で始まったものだった(注14)。この展覧会では、溝口禎次郎と伊東忠太による一般向けの講演会を、5月6日午後1時から東京美術学校講堂で行い、雪舟研究の成果の普及、評価の向上と拡大を図ろうとしていたことが窺える(注― 293 ―

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