鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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(2)雪舟研究の成果の公開─雪舟真筆作品選定15)。1906年以降1923年までに開催された4つの雪舟展のなかで、一般公開された雪舟流展、雪舟会、雪舟傑作展覧会の出品作品をみると、雪舟研究の成果を取り入れると共に、以後の研究の手掛かりを提供しようとする意欲的な展示だったことがわかる〔表参照〕。具体的に見てみよう。雪舟流展で出品された雪舟真筆作品は6件(戦前の雪舟展の中では最多)で、当時すでに旧国宝に指定されていた「秋冬山水図」(現在東京国立博物館蔵)・「慧可断臂図」(斉年寺蔵)を始め、現在重要文化財に指定されている「四季山水図」2件(現在東京国立博物館蔵と現在石橋美術館蔵)・「毘沙門天像」(現在相国寺蔵)・「山水小巻」(現在京都国立博物館蔵)があった。これらのうち「四季山水図」(東京国立博物館)以外は、この展覧会の時点ですでに美術専門書や美術雑誌で紹介されていた。また、『国華』誌上で1906年2月に紹介されたばかりの「山水小巻」が出品されているなど、最新の雪舟研究の成果も盛り込まれていた。よって雪舟流展は、当時既に評価されていた作品に加え、注目すべき作品も出品することで、雪舟研究の成果を提示すると共に、研究の進展に寄与しようとする意図があったのではないかと考えられる。次に井上馨邸での400回遠忌会に雪舟筆として出品された作品29件の中で現在指定文化財となっている作品は「山水長巻」(現毛利博物館蔵)と「四季花鳥図屏風」(現在 前田育徳会蔵)の2件である。この出品は後述するように、展示を発案した井上馨が毛利家の内向きの顧問だったことから実現したと考えられる。特に「山水長巻」はすでに岡倉天心が『国華』誌上で高く評価しており(注16)、この作品を出品した背景には、井上の人脈を誇示するねらいもあったのではないかと考えられる。雪舟会は出品目録をみると、雪舟筆として出品された作品79件の中で現在国宝になっているのは「山水長巻」と「天橋立図」(現在 京都国立博物館蔵)の2件、重要文化財となっているのは「毘沙門天像」と「四季花鳥図屏風」(前田育徳会)の2件である。特に「天橋立図」は、沼田頼輔が『画聖雪舟』で初めて紹介(注17)し、その後一般公開されたものだった。これは、当時「天橋立図」を所蔵していた山内家の史料編纂所に勤務していた沼田が、雪舟会の第1回講演会の講師を務めた紀淑雄に教示を仰いで『画聖雪舟』を執筆していた関係(注18)から、出品が実現したのではないかと考えられる。最後に「雪舟傑作展覧会」についてである。この展覧会の出品目録は『日本美術協― 294 ―

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