「プロムナード」の主題を表すテキスタイルとその下絵の同情景を見るならば、特に前景に配置された馬の容貌と馬上の貴婦人とお伴である女性の風采の描写から画家の細部に対するこだわりが感じられる一方で、背景部分をはじめとする構図の整理が進み、前景と後景の対比が鮮明となり画面全体の構図に調和がもたらされているためである。デュフィは、1907年に装飾挿絵本入り詩集『古着』(Friperies 1923年刊)で共に仕事を行った詩人のF.フルーレに宛てた手紙のなかで、上述のアンデパンダン展への出品作品について言及している。1913年3月11日パリ 親愛なる友人へ。…私が君のことを顧みていなかったとすれば、それは絵画のせいなのだ。君はサロン・デ・ザンデパンダンへの出品のことを知っているね。それは私にとって重大なことなのだ。私は《プロムナード La promenade》と名付けた馬のタブローに最後の一筆を置いたときに、君からの素敵なエーゲ海のカードを受け取ったのだ。その馬は、君が思い描いたような気品のある女性騎手を乗せている…(注8)。以上の文面から、デュフィがその創作に相当な意気込みを感じており、画中の細部に至るまで入念に筆を入れて作品を仕上げた様子が伝わってくる。《プロムナード》の絵画に描かれた女性騎手の図像は、デュフィがB.F.社の下で手がけた複数のテキスタイル下絵に装飾モチーフとして採用された(注9)。プリント・テキスタイルの《プロムナード》または《ブーローニュの森のプロムナード》(オリジナル版 1917年)〔図3〕には、絵画作品に由来する、騎乗する貴婦人と馬の前を歩く正装姿の一組の男女のイメージ(注10)が色彩や向きに変更を加えた形で表され、別のモチーフと組み合わせることで新たなデザインを呈している(注11)。例えば、凧揚げをして遊ぶ少年と少女の姿はF.フルーレの詩集『古着』に所収のデュフィによる挿絵版画の一点〔図4〕に由来するが、その凧は1917年制作の最初の下絵にトリコロールで彩色されている。その下絵にはさらに、『古着』の目次頁を飾った花籠のイメージ〔図5〕から着想を得た黄色いモチーフがみられるが、花束が籠の外に溢れた描写は豊穣の象徴であるコルヌコピアと結びつく。一見すると都市郊外での穏やかな余暇の情景という風俗画題を扱ったかにみえるこのテキスタイル下絵は、上記の描写表現のほかに、軍服姿の男たちの描き込みといった点から、戦時下における、平和を― 313 ―
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