鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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注⑴ドラ・ペレス=ティビは、「デュフィは創作のなかで、同じ一つの着想源を有しながらも満ち潮と引き潮のような関係にあり、表現形式の異なる装飾と絵画の間に、ある相互性を論証する有意義で生産的な対話を実現させた」と述べ、具体的な作品を挙げその問題について論じた(Dora Perez-Tibi, “Raoul Dufy, du mythe à lʼinvention”, Raoul Dufy du motif à la couleur, cat. exp.,Musée Malraux, Le Havre etc., 2003, p. 19.)。デュフィが活躍した同時代においても、その創作に対して同様の批評がなされた(Christian Zervos, “Raoul Dufy”, Les arts de la maison, Éditions Albert Morancé 3ème année, Été, 1925, n°8, p. 15)。「プロムナード」の作品群を取り上げ、絵画とテキスタイルに共通するモチーフの変遷と、それに伴いモチーフに新たな概念や価値観が備わり布地上に徐々に蓄積されてゆくことを検証した。絵画のイメージから派生したテキスタイルの装飾モチーフがもつ多様な造形上のコンセプトとその奥深さは、テキスタイルが日常空間で実用されるなかで人々の眼差しを引き寄せ、ものを見る感覚や想像力を養う役割を担ったことだろう。⑵その問題に関し、筆者はこれまで先行研究の不足点を踏まえつつ、特にテキスタイル独自の織りと染色の技法が生み出す視覚的な特徴がいかにしてデュフィの眼差しを条件づけ、その絵画制作に影響をもたらしたかという問題について取り組んできた。詳しくは以下の拙著を参照のこと;矢野ゆかり「(研究ノート) ラウル・デュフィのテキスタイル制作:その実践と絵画作品への影響」『国立西洋美術館研究紀要』第18号、2014年、31-41頁。⑶デュフィのテキスタイル・デザインに関し、C. ゼルヴォスは以下のように指摘した;「我々はそこに、視覚の感度、視覚による高揚、鋭敏な筆跡、構想(プラン)の名残といった彼の絵画やリトグラフ、木版画において欠かせない特質を見出す」(Christian Zervos, op.cit., 1925, p. 15.)。⑷例えば以下の展覧会図録を参照のこと;“Les tissus de Raoul Dufy”, Raoul Dufy du motif à la今後の課題として、リヨンの織物装飾芸術博物館所蔵のB.F.社の図案見本帳(注26)に掲載されたデュフィのテキスタイルの総括的な調査を引き続き行い、テキスタイルとその下絵のモチーフと作品情報を可能な限り収集し体系的にまとめたいと考えている。その情報を、同時代に制作された共通する主題を表す別領域の作品群と照らし合わせることで、依然として整理のなされていないそれらの制作の詳細な経緯を少しでも明らかにしたい(注27)。謝辞:デュフィの作品と資料のご所蔵館である島根県立石見美術館、リヨン織物装飾芸術博物館、ロサンゼルスのゲッティー・リサーチ・インスティテュート、また国立西洋美術館職員の方々の多大なるご支援とご理解に対し、ここに深く御礼申し上げます。― 317 ―

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