鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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1 細川家伝来能面の概要㉛ 細川家伝来の能面コレクションに関する考察研 究 者:熊本県立美術館 主任学芸員  才 藤 あずさはじめに江戸時代において、能は武家の式楽として隆盛し、大名家では演能の機会に備えて数多くの能面・能装束を収集する必要があった。旧熊本藩主細川家の場合、能面・能装束をはじめとした数多くの能道具類が公益財団法人永青文庫に伝来するほか、熊本大学附属図書館に寄託される古文書群の中には、謡本や能番組などの膨大な能楽資料が含まれている。本研究は、細川家伝来の能面コレクションについて、作品及び関連史料の精査を通じて、その特色を明らかにすることを目的とする。近世大名家伝来の能面コレクションは、江戸時代を通じて収集され、形成されてきたものであり、その性格をとらえるためには、遺されたものと失われたものの双方から考察を進める必要がある。今回の報告では、まず永青文庫に遺された能面群の情報を整理し、江戸時代の道具帳や附属資料などの記録と照合することにより、細川家の能面コレクション形成史上における現存作品の位置づけについて考察を試みたい。細川家伝来の能面として確認されているのは、永青文庫に所蔵される能面163点であり、東京の永青文庫に111点、熊本県立美術館に52点が分蔵される。熊本県立美術館に保管される能面52点は、かつて熊本城に保管されていたもので、昭和57年頃に熊本県立美術館に移され、近年の悉皆調査を経て当館に寄託された。熊本城に入る前は、熊本市にある近代細川家の別邸である北岡邸の御蔵に保管されていたと推定される。このほかに、細川家ゆかりの能面として、細川家2代・忠興奉納の伝承をもつ、大分県宇佐神宮所蔵の能面群や、細川家の家老職にあった松井家に伝わる能面群(108点。一般財団法人松井文庫所蔵)、松井家4代直之が熊本市北岡神社に奉納した能面11点が挙げられる(注1)。これら細川家ゆかりの能面は、江戸時代における細川家と能の関わりを考察する上で重要な資料といえるが、現段階では個々の作品についての精査を終えていないため、今回の報告では取り上げない。さて、永青文庫所蔵能面の内訳は、能面130点、狂言面33点で、その詳細は別表のとおりである〔表1、2〕(注2)。能・狂言面の多くは面裏に漆が塗られ、焼印、金泥書、朱書、墨書、貼紙書などによって作者や伝来、面種などの情報があらわされて― 334 ―

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