2 能面の保管状況とその変遷についている〔図1、2〕。能面の種類は、式三番に用いる翁系の面をはじめ、幅広い面種が揃えられており、細川家において上演された様々な演目に対応するため、収集された様子が窺える。また、面裏の情報から想定される作者として、大野出目家2代・友閑満庸、越前出目家4代・古元休満永、児玉家初代・近江満昌らの名前を多く挙げることができ、本コレクションが江戸時代に活躍した、いわゆる世襲面打諸家(注3)の作面を中心に構成されていることが確認できる。それでは、これらの能面はいつ頃収集され、どのような変遷を経て今日のまとまりとなったのであろうか。残念ながら、個々の作品について、制作の経緯や収集の時期を確認できる資料は残されておらず、本稿において収集の経緯を明らかにすることはできない。しかし、江戸時代後期の能道具帳や能面箪笥が伝来しており、そこから近世における細川家の能道具管理の一側面を窺うことができる。先述のとおり永青文庫所蔵の能面は、東京と熊本の二か所に分蔵される。江戸時代の大名道具が、一般に江戸藩邸と国元の双方で管理されていたことを考慮すると、現在の姿は江戸時代の道具管理の状況をある程度反映しているのではないかとも推測される。しかし、細川家においては、15代護成と、それに続く16代護立が能楽を後援したことにより、明治維新後も能が盛んに行われていたようで、少なくとも昭和のある時期までは、東京と熊本の間で能道具の移動があっていたと考えられる。そこで、まず双方の能面について現在の保管状況を確認し、能面を収める面袋や能面箪笥などの附属資料に記載された情報から、近代における作品管理の変遷を追いたい。熊本県立美術館寄託の能面は、戦後に仕立てられたと思しき新しい面袋に収められるが、これらを収納する能面箪笥の多くは、江戸時代から引き継がれたものと考えられる。能面箪笥は合わせて8棹が伝わり、その形状から次の4つのタイプに分類される。すなわち、2列3段の引出を持ち、竜の丸文を蒔絵する面箪笥(A)、2列3段の引出を持ち、両開きの扉の付いた春慶塗の面箪笥(B・C)、左右に各3個の引出を持つ箱形の面箪笥(D・E・F)、2列5段の引出を持ち、側面に棹通しの金具を付けた面箪笥(G・H)で、それぞれのデータは下記の通りである。・面箪笥A:高45.2 幅44.6 正面貼紙墨書「御前通御能面」他〔図3〕・面箪笥B:高48.5 幅53.9 上面貼紙墨書「弐号」他・面箪笥C:高47.4 幅53.1 正面貼紙墨書「御囲」他― 335 ―
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