不用分御能御装束類帳」といった記録が綴られているが、「御次通御能御装束并御小道具帳」に能面3点が朱書で追記されているほかは、能面についての記録は見当たらない。『天保十一年御道具帳』は、「御前通」の能装束を筆頭に、「御前通御小道具」「翁一式」の道具類を書き上げた後、「唐織之部」「厚板之部」といった能装束の名称を再び書き上げ、「御面之部」「番外」「狂言」として、能・狂言面を書き上げている。装束の記録が「御前通」とそれ以外に分けて記してあるのは、道具の格や用途の違いにより作品を分類・管理していたためであろう。能面は「御面之部」「番外」に101点、「狂言面」は「狂言」の項に19点が記される他、式三番に用いる翁系の面は、「翁一式」として装束や道具類とともに6点の作品が記されている。現存する2冊の能道具帳の記録を比較すると、能・狂言面の総数はほぼ同じであり、『御前通御道具帳』の方に翁系の面の記録がなく、また記載される作品に双方でわずかな違いがある以外は、ほぼ同内容といえる。それでは、現存する作品は、天保期の能道具帳にみられる能面群をどの程度受け継いでいるのだろうか。道具帳に見られる能面の名称と銘文から、現存作品との照合を行い、一致すると思われる道具帳の記述を、各作品に仮に当てはめてみた〔表1、2「御前通御道具帳」「天保11年御道具帳」欄参照〕。その結果、どちらの道具帳の記録とも一致する作品、片方の道具帳のみに記録のある作品、どちらの道具帳にも記録のない作品、道具帳に記録はあるものの現存しない作品があることが確認できた。まず、道具帳に記録のある作品は、東京保管分と熊本保管分の双方に見られ、能面・孫次郎〔表1-4〕、能面・曲見〔表1-19〕、能面・平太〔表2-11〕など、全体のおよそ3割の能面が両道具帳の記載と一致する。また、両道具帳のどちらの記録とも一致しない作品も、能面・泥眼〔表1-6〕、能面・姥〔表1-9〕、能面・小尉〔表2-15〕など、東京・熊本保管分と合わせてかなりの点数が確認できる。しかし、これらの能面が本道具帳制作以降に入手されたものであるのか、あるいは本道具帳とは別に管理されていた作品であったのか、現時点では明らかではない(注6)。道具帳に記載があり、永青文庫に現存しない作品について例を挙げると、「朝倉(尉)無銘」、「三光(尉) 片岡正信作」、「千種あやかし 洞水写 倉岡半蔵作」などが挙げられる。このうち、道具帳に記載の「千種あやかし」については、熊本にある面箪笥Gに貼紙で示される「六十八 千種 倉岡写」に相当する可能性があり、少なくとも近代までは細川家に伝わっていたと推定される。― 338 ―
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