注⑴ミニアチュールの素材や技法、用途については、B. Pappe «Kunst und Können in derMiniaturmalerei» in Miniaturen aus der Sammlung Tansey, München: Hirmer, 2000, pp. 11-27. 画家および作品の個別研究論文が収録された研究会報告書は、La miniature en Europe Des portraits de propagande aux œuvres éléphantesques, Paris: Editions du Ceremif, 2012. 制作者の生涯と画業については、N. Lemoine-Bouchard, Les peintres en miniature actifs en France: 1650-1850, Paris: Editions de l'Amateur, 2008. ミニアチュール画家の修業については、C. Lécosse, «Devenir peintre en miniature: la professionnalisation des formations à la fin du XVIIIe siècle», dans Apprendre à peindre ! Les ateliers privés à Paris de la fin du XVIIIe siècle à 1863, Paris: Presses universitaires François-Rabelais, 2013, pp. 97-114.⑵Lécosse, op. cit., p. 104.⑶D. Diderot et J. dʼAlembert, Encyclopédie, ou Dictionnaire raisonné des sciences, des arts et des métiers,⑸Diderot et dʼAlembert, op. cit., p. 548.結18世紀フランスの批評家たちは、どのような大きさの作品の場合でも、画家が歴史画の主題を選ぶことに高い価値を認め、さらに大画面の作品に用いられる、大胆な絵筆のタッチによる質感表現の技巧を称賛する、伝統的絵画論の主張を重視する傾向があった。そのため専ら肖像画を描き、我慢強さを要する点描による仕上げを特徴的に用いるミニアチュールの作品と作者は批判され、改善を求める批評が行われた。一方で都市と宮廷では批評家のものとは別の評価基準が採用され、肖像画の肖似性、あるいは装飾品や日用品への設置といった観点から、ミニアチュールに価値と需要を認める傾向が確認された。すなわちミニアチュールは作品享受者の要求に応えるために実用的性格を強く持つ必要があった一方で、絵画作品であるために伝統的な絵画理論にもとづく価値判断の対象ともなり得た。それにより伝統的絵画論の信奉者による芸術上の要請と、注文主・作品利用者による実用性の要求のはざまで、ミニアチュールは様々な判断規準のもとに評価された。そしてこのように複数の視点から多様な評価の対象になるというミニアチュールの作品とその作者の特殊な性質の理解に大きく寄与する点で、18世紀フランスのミニアチュールとその制作者に対して寄せられた評価を伝える諸テキストは、啓蒙期絵画史の史料として高い重要性を有すると指摘することが可能である。t.X, Neuchatel: Samuel Faulche, 1765, p. 548.⑷18世紀フランスの肖像画制作におけるモデルの潤色の問題に関しては、拙稿「十八世紀フランス宮廷とJ=E・リオタールの肖像画のイメージ─身体的特徴の表現の特殊性と宮廷人の評価─」『美術史』第174冊、2013年、288-303ページ。― 361 ―
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