鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
391/550

2.プログラム概要3.階上廊東端の旧約預言者階上廊より上のプログラムは次のとおりである〔図3〕。至聖所のアプシスには、ビザンティンの聖堂装飾に通例である玉座の聖母子と天使が描かれる。その下を囲むように、2人の天使と聖母の両親であるヨアキムとアンナが配置される。聖堂の東西南北へ十字にかかるヴォールトには十二大祭の図像が表され、ヴォールト脇のリュネットに他のキリスト伝の場面が展開される。階上廊には小ドームが4つとやや大きいドームが1つあり、それぞれに旧約の人物像が配置されている。南北4つの小ドームには旧約聖書の王や義人たちが並び、西側のドームには、聖母子のメダイヨンの下に8人の旧約預言者像が描かれる。これらとは別に、階上廊東端にも旧約預言者の像があり、副アプシスと手前のヴォールトに計4人の預言者が大きくとりあげられている。多くの旧約聖書の人物像の中で、階上廊東端の4人の預言者がとりわけ重きを置かれていることは注目に値する。階上廊の東端はそれぞれ、地階におけるプロテーシスとディアコニコンに相当する場所である。プロテーシス上階にあたる部分にモーセと老年のザカリアが(注4)、ディアコニコンの上にあたる部分にアロンとメルキセデクが描かれている。モーセは北東の副アプシスに半身像で描かれる〔図4〕。壮年の姿で、首の後ろまでの茶色い巻き髪に短い鬚をもつ。宝冠をかぶり、祭司の服装に特徴的な金の縁取りつきの白いキトンを纏い、肩に紫の上着を掛ける。両腕を大きく広げ、右手には鉢とそれに載るスタムノスを掲げており、左手には巻物を広げるが、銘文は残っていない。アロンは南東の副アプシスに半身像で描かれる〔図5〕。長い白髪と白鬚をもつ老年の容貌である。宝冠をつけ、真紅のガウンを羽織る。両腕を大きく広げ、右手は吊り香炉を振って、左手には芽吹く杖を構える。老年のザカリアは、モーセの手前のヴォールトに表される〔図6〕。メダイヨンの半身像で、長い白髪に白鬚の老年の姿である。古代風の衣を纏い、頭にユダヤの祭司帽をのせる。右手で祝福のしぐさをとり、左手で巻物を掲げる。銘文はゼカリヤ書由来ではなく、「諸々の預言者たちのうちで真理を成就なさるキリストは、あなたを通して救いをもたらしたのです、おとめよ」(ΠΛΗΡΩΝ Ο Χ (ΡΙΣΤΟ) Σ ΤΩΝ ΠΡΟΦΗΤΩΝ ΤΟΥΣ ΛΟΓΟΥΣ ΣΩΤΗΡΙΑ ΠΕΦΥΚ (ΕΝ) ΕΚ ΣΟΥ ΠΑΡΘΕΝΕ)と書かれる(注5)。― 380 ―

元のページ  ../index.html#391

このブックを見る