4.旧約預言者像の作例メルキセデクは、アロンの手前のヴォールトにメダイヨンの半身像で表される〔図7〕。長い白髪と白鬚をもつ老年の容貌である。宝冠と紫の上衣をつけ、両手で巻物を広げ持ち、銘文には「(わたしは)異国の秘跡の人を予見した。(その人は)犠牲であり、王であり、耳を傾けてくださる方であり、僕でもある」(ΤΥΠΟΝ ΠΡΟΕΙΔΟΝ ΤΟΥ ΞΕΝΟΥ ΜΥΣΤΗΡΙΟΥ. ΘΥΤΗΣ ΒΑΣΙΛΕΥΣ ΧΡΗΜΑΤΙΣΑΣ ΚΑΙ ΛΑΤΡΙΣ)と記される(注6)。これら4人の旧約預言者はなぜ大きくとりあげられ、この場所に配置されているのだろうか。同じ建築構造を持つミストラのオディギトリア聖堂(通称アフェンディコ、1311年以前)においても似た構成がなされており、階上廊東端に3人(4人目は銘文不明)の預言者が描かれる。人物配置にずれがあるが、北側副アプシスにメルキセデク、その手前ヴォールトにザカリア、南側副アプシスは銘文不明の人物、手前のヴォールトにモーセが置かれている。メルキセデクと老年のザカリアは、パンタナッサと同様の銘文を持っており、おそらくアフェンディコの創建者である修道院長パコミオスによるものとされる(注7)。パンタナッサもアフェンディコも、中央ドームのフレスコが剝落しており、聖堂全体の旧約預言者の構成を知ることができない。14~15世紀の聖堂における旧約預言者のレパートリーと配置の構成を把握し、上記4人の預言者がどのように扱われているか考察するため、個々の聖堂作例を確認していく。後期ビザンティンの聖堂装飾において、旧約預言者は通常、ギリシア十字式聖堂の中央ドーム下ドラムに描かれる。しかしこれとは別に、テンプロン両脇から続く細いアーチソフィットやナオスの柱上部など、中央ドーム下ドラムの預言者よりも若干低いが聖堂の上方の位置に、旧約預言者の一群を分けて描く聖堂が見られる。以下、中央ドーム下ドラムに描かれる旧約預言者をA群、他に分けられる旧約預言者をB群として考察する。紙面の都合上、以下4つの聖堂を例に引く。オフリドのパナギア・ペリブレプトス聖堂(1294/95年)において、A群の預言者はダヴィデ、エゼキエル、イザヤ、ダニエル、ハバクク、ソロモン、エレミヤ、ザカリア、ヨエル、ナウム、ゼファニヤ、ミカである(注8)。これとは別に、アプシスを縁取る逆U字型の部分に、メダイヨン形式で旧約の人物像が集められており(注9)、これをB群と見なす。人数が多いため一部のみの言及だが、B群のうち最も高い位置からモーセとアロン、サムエルとフル、ザカリアとメルキセデクのペアが対置さ― 381 ―
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