鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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5.旧約預言者像のプログラム上述の作例から、A群とB群はそれぞれ異なる預言者で構成されていることが見て取れる。モーセとアロン、メルキセデク、老年のザカリア、ダヴィデとソロモンは通常B群に入る。ダヴィデとソロモンに関しては、マリアを讃美する銘文を持って「受胎告知」の傍らに配置されたり、しばしば「受胎告知」の場面内に吸収されることもある(注14)。れている。パンタナッサの預言者の組み合わせと同様であることが分かる。アトス山のプロタトン聖堂(14世紀初頭)はバシリカ式建築のためドームがなく、A群とは形式が異なるが、屋根に近い壁面上部の南北に、アダムから始まる旧約の人物が約50人並べられている(注10)。この他に、テンプロンからのびる柱のアーチソフィット部に大きく描かれた旧約預言者の一群があり〔図8〕、ダニエル、モーセ、メルキセデク、ノア、北側にエリヤ、アロン、サムエル、エレミヤが並ぶ。モーセとアロンは、最も高い位置のアプシス側に置かれている。スタロ・ナゴリチャネのスヴェティ・ギョルギ聖堂(1316-18年)では、A群の預言者はエレミヤ、エリヤ、エリシャ、ゼファニヤとみられる人物、ヨエル、不明2人である(注11)。B群はテンプロン上部の柱からのびるアーチソフィットと続く柱の部分にある〔図9〕。数が多いため祭壇寄りの預言者にのみ絞ると、南側にヤコブ、モーセ、メルキセデク、サムエル、ダヴィデ、北側にダニエル、アロン、老年のザカリア、ソロモンが並ぶ。モーセとアロンが祭壇寄りの高い位置にあり、メルキセデクと老年のザカリアもそれに続く位置にある。コソヴォのグラチャニツァ修道院(1321年以前)では、A群にエゼキエル、イザヤ、エレミヤ、エリヤ、エリシャ、ヨナ、ミカ、ゼファニヤが描かれる(注12)。B群はドーム下方、4本の柱の中央側に面する部分にあり〔図10〕、モーセ、ダヴィデ、アロン、ソロモン、アモスとメルキセデク、ヨエルとサムエル、若いザカリアと老年のザカリア、ハバククとダニエルが並ぶ。この他にも、首都コンスタンティノポリスのコーラ修道院(1316-21年)のナルテクス (注13)、コソヴォのデチャニ修道院の至聖所入口(1350年頃)、マケドニアのスヴェティ・ニキタ聖堂(1320年頃)においてもB群の旧約預言者像を確認することができ、その筆頭となるのがモーセとアロンである。スヴェティ・ニキタでは至聖所両脇のアーチソフィットに描かれており、南側にモーセ、北側にアロンとみられる祭司の一部が残る。― 382 ―

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