B群の預言者像は概して、銘文を持つものが少ない代わりに、聖母の予型とされるモティーフを携えていることが多い。なおかつ、テンプロン上部の「受胎告知」付近に並べられたり、アプシス方向を両側から縁取るような構成がよく見られる。いずれの作例においても、モーセとアロンは祭壇寄りの重要度の高い位置に描かれ、祭司の姿でスタムノスや石板、燭台、香炉などを持つ(注15)。パンタナッサのプログラムに戻ろう。中央のドームは剝落しているが、西ドーム下の預言者と、東端の4人の預言者の2箇所がB群と考えられる。西ドームは剝落や不明箇所が多いが、メダイヨンの聖母子のすぐ下に、モーセとアロンの姿が確認できる(注16)。一方で、階上廊東端には先述のとおりモーセ、アロン、老年のザカリア、メルキセデクが描かれており、モーセとアロンは重複して表されている。画家はどのような意図をもって、4人の旧約預言者をとりわけ大きく扱ったのだろうか。階上廊東端のモーセはスタムノスを捧げ持っている。天から降ったマナをおさめる壺(出エジプト16:33, 34)であり、これはすなわち、天から降ったパンであるキリスト(ヨハネ6:51)を胎に身ごもる聖母マリアの予型である。アロンの花咲く杖(民数記17)もまた、神の力によって枝が実を結んだところから聖母の処女懐胎の予型とされる。これらのモティーフと祭司の姿は、聖母を予型する旧約聖書物語場面の一つ、「モーセの幕屋」(出エジプト40)のイメージを有している〔図11〕(注17)。では、モーセとアロンに次ぐ預言者として、老年のザカリアとメルキセデクが選ばれたのはなぜか。パンタナッサでは両者とも銘文を広げているため、聖母の予型モティーフを携えていないが、彼らに付されるモティーフは、他の作例を見れば明らかに燭台もしくは香炉、パンとパン皿であり、また服装は祭司の姿である。これらは現実に典礼の中で用いられる聖具や聖体、それを用いる司祭のイメージでもある。反対に、他の旧約預言者のモティーフはそうではない。サムエルは角笛、ダニエルは山と石、ヤコブは梯子、イザヤは炭火とスプーン、エゼキエルは閉ざされた門、バラムは星、ギデオンは羊毛、ハバククは山、ノアは箱舟と、いずれも現実の典礼に含まれるイメージとは異なる。つまり、祭司の姿であり、かつ典礼祭具のイメージを有していたがために、モーセとアロンに次いで祭壇周辺に加わる旧約預言者として、特に老年のザカリヤとメルキセデクが選択されたものと考えられる。結 階上廊の預言者と至聖所の聖母子とのつながり他の聖堂におけるB群の旧約預言者像が、アプシス方向を両端から取り巻く構成であるように、パンタナッサの4人の旧約預言者もまた、中央に位置するアプシスの玉― 383 ―
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