1、金蓮寺本・金蓮寺別本の概要㊵ 京都時衆教団における祖師伝絵巻制作─金蓮寺本を中心に─研 究 者:公益財団法人 渥美国際交流財団 職員 本 多 康 子はじめに本稿では、京都の時衆教団のなかで四条道場として一大拠点を築いた金蓮寺所蔵「遊行上人縁起絵」(20巻本)とその別本(第8巻のみ現存)の作品分析と制作背景について考察する。時衆の開祖・一遍の事跡を描いた祖師絵伝は、「一遍聖絵」12巻本(聖戒編、法眼円伊筆、正安元年(1299)成立)と、一遍(前篇4巻)と二祖他阿(後篇6巻)の事跡を描いた「遊行上人縁起絵」10巻本(宗俊編)との二系統の諸本が伝存する。金蓮寺本ならびに別本は宗俊本に相当する。特に前者は、全10巻を上下巻に分けて20巻本として現存する諸本のなかでも数少ない完本(全巻)を備えた貴重な作例である。また、先行研究によると「遊行上人縁起絵」諸本のなかで甲本系統の伝本と分類され、比較的古態を示す作例として挙げられている(注1)。金蓮寺本は失われた「遊行上人縁起絵」の祖本あるいはそれに近しい伝本として目されており、さらに、近年の研究(注2)により「天狗草紙」や大和文華館断簡本に通底する、やまと絵正系の絵師による鎌倉絵巻を想起させる古様な様式的特徴が指摘されている。「遊行上人縁起絵」の原態を探る重要な作品と位置づけられよう。こうした研究動向を踏まえ、「遊行上人縁起絵」諸本における金蓮寺本の位置づけを周辺作品との比較分析を通して明らかにしたい。また、金蓮寺(四条道場)は、先述したように、洛中での賦算が認可された最も有力な時衆道場の一つであると同時に、女院や公家、足利家などの貴顕との関わりを深め、後に連歌・和歌・立花・書など文芸サロンの中心地となる。そのため、同寺には時衆関連絵画(祖師像や念仏図など)が多く伝存し、往時の時衆文化圏における在り方をうかがわせる。とりわけそのなかでも、法灯継承の根幹をなす祖師絵伝の制作とはどのような意義を持つのかを解き明かしていきたい。まずはじめに、金蓮寺本と金蓮寺別本の概要について絵を中心に見ていきたい。― 435 ―
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