鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
484/550

色彩についてカンピーリオは、パガーノによるアトリウムの青い彩色にあわせたものとする(注16)。また同時に、ペルシコが〈名誉の間〉の空間演出においておこなう光と影の明暗表現と、フォンターナが彫刻の着彩において好んだ強いコントラストとは軸を一にするものだとした。つまり、〈名誉の間〉での白一色の彫刻の制作は、ペルシコの演出する空間表現全体に寄与したものであるが、ここで批評家の示した明暗表現は、もとよりフォンターナの持つ明暗表現の傾向と合致していたということだ。ここで、ペルシコによるフォンターナの《虚空の勝利》についての記述をとりあげたい。……《勝利》のうちに、顔貌の、両手の金の装飾的な趣味は残された。しかし、衝動は震えのようなマッスを達成した(注17)。この記述は、ペルシコが《虚空の勝利》における「金」という色の選択を、成功とはとらえていなかったことを意味する。このあとの記述は以下の通りである。《座った少女》、“タンタルディーニ賞”の審査員の感嘆の叫びを強引に引きだすために創りだされた《漁師》と同時期の、そして黒の、黒と赤の、黒と白の彫刻と同時期のそれは、さしあたってのフォンターナの代表作である。(それは)ヴォリュームの分解を表現し、(メダルド・)ロッソとはかけ離れたレベルで絵画と彫刻を解体するという主張を表現している。彫刻家の趣味についての経験の全てと、色彩の苦悩の全ては、作品の完璧な統合のうちに、そして忘れがたいアクセントであるこの黒い衣服のうちに集約された(注18)。(カッコ内は筆者による補足)ここでペルシコは、《座った少女(34SC1)》〔図5〕をフォンターナの「代表作」ととらえ、絶賛している。では、《虚空の勝利》と《座った少女》、この二つの作品におけるペルシコの評価の違いはどこから来るのか。それを解く鍵として、《座った少女》と同時期に作られた作品についての記述を見るべきだろう。ここで並べられるのは、《漁師(33-34SC1)》〔図6〕と「黒の、黒と赤の、黒と白の彫刻」である。《漁師》はその全身を「金と銀、白と黒」に彩色された像であった。これ以外の彫刻の詳細は不明だが、具象的なモティーフの彫刻に着彩したタイプの作品を指していることは、前後の文脈から読みとれる。にもかかわらず、ここでペルシコはモティーフに全くふれず、作品の色彩だけをとりあげて列挙した。《漁師》と、あとに並べら― 473 ―

元のページ  ../index.html#484

このブックを見る