2.対象作品の基本データ㊹ 円山応挙筆《江州日野村落図屏風》のモチーフのパターン化とその意義について研 究 者:コロンビア大学大学院 美術史研究科 博士課程 1.はじめに江戸時代中の絵画史において偉大な業績を残した円山応挙(1733-1795)の作品の中に、同じ主題や構図などを繰り返し用いた作例は相当な数になる。多数の応挙筆の《狗子図》、《虎図》、《瀑布図》をはじめ、金刀比羅宮表書院の《山水の間》の床の間の構図に近い《保津川図屏風》や大乗寺の《郭子儀図》襖絵を再利用された《郭子儀図》は、すべてその代表的な例であろう。本研究では、応挙の大画面の水墨山水図屏風の一群に焦点を当て、三の丸尚蔵館蔵の《江州日野村落図屏風》〔図1〕を手掛かりに、応挙の安永・天明期の水墨山水図の特徴とそれらの類似性と画題の意味を分析した。その結果、応挙は単に実景をもとに日本の風景を水墨山水図として描いたのではなく、モチーフをパターン化することによって一つの構図を繰り返し描き、日本と中国のふたつのイメージを織り交ぜた重層的な絵画世界を作り出していたことがあきらかになった。三の丸尚蔵館蔵の琵琶湖を主題にした屏風《江州日野村落図屏風》が、東京国立博物館蔵の旧帰雲院障壁画《月夜浮舟図・江頭月夜図》(襖8面)〔図2〕と基本的に同じ構図をしていることは、既に1994年に兵庫県立歴史博物館で開催された特別展『没後200年記念:円山応挙展』の解説文において指摘されている(注1)。更に大和文華館蔵の《四季山水図屏風》〔図3〕二双のうちの秋季に当たる一隻は、《江州日野村落図屏風》と同じモチーフを部分的に使用している(注2)。応挙のこうした一連の山水図を本研究では仮に「琵琶湖型山水図」と呼ぶが、サンフランシスコ・アジア美術館蔵の《月夜水村図屏風》〔図4〕も、この「琵琶湖型山水図」の一例であり、《江州日野村落図屏風》の右隻の村落の場面を切り抜いた構図である。以上の4点以外にも《江州日野村落図屏風》と殆ど同じ構図の作品は、大正・昭和初期の入札目録の中に少なくとも3点が認められる〔図5〕。本研究が対象としたこれらの作品の基本情報は〔表1〕の通りである。後述する2点の雪景図も、リストの最後に追加した(注3)。制作年に関して、《江州日野村落図屏風》の安永5年(1776)は前述した3点の天― 482 ―イェンス・バルテル(Jens Bartel)
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