Ⅱ.「美術に関する国際交流援助」研究報告1.2015年度援助⑴ 外国人研究者招致① ヴェネツィア・ルネサンスとティントレットの肖像画期 間:2016年5月15日~5月22日(8日間)招致研究者:ヴェネツィア・カ・フォスカリ大学 教授 セルジオ・マリネッリ(Sergio Marinelli)報 告 者:イタリア文化会館 館長 ジョルジョ・アミトラーノ(Giorgio Amitrano)今回の来日の主要目的は、5月17日18時から行われた東京国立博物館開催の伊東マンショの肖像の特別公開内覧会および特別晩餐会に参加し、翌5月18日午後に在日イタリア大使館、イタリア文化会館およびイタリア国立東方学研究所主催のシンポジウム「イタリアと日本、初めての出会い─ドメニコ・ティントレット作「伊東マンショの肖像」の発見について」の第二部(美術史的考察)での、肖像画を得意としたドメニコ・ティントレット(1560~1635)の全画歴の再検討から伊東マンショの肖像の作者を、父ヤーコポでなく同画家とする美術史的根拠を提示する発表(「ドメニコ・ティントレットと伊東マンショの肖像画:美術史家の観点から」)と、第二部発表者2名に司会(小佐野重利)が加わった、ディスカッションへの参加である。4時間に及ぶシンポジウムであったが、第一部を含め、発表者たちからは新たな視点や新知見が提示され、300名余りの聴講者は最後まで熱心に質疑に加わるという盛会であった。マリネッリ教授の発表では、具体的に以下の結論を述べた。1585年にヴェネツィア元老院が、ヤーコポ・ティントレット(1518~1594)に発注した4天正遣欧少年使節の群像肖像画は、1587年の時点でも仕上げられていない。新発見の《伊東マンショの肖像》は、像主に関しては、作品表面にX線写真によって、基底材キャンバスが切断された際に残った説明文(dicitura)の断片が明らかとなり、かつそれが同作品キャンバス裏に引き写されたものと一致し、伊東マンショであると確認できた。同肖像は、元老院からの注文作品のために準備された油彩下絵であって、元老院には完成した4少年群像画は手渡されなかった。注文作品のための油彩準備作であることは、マリ― 511 ―
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