鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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さらに、同教授は、7月に国立新美術館で開催されるヴェネツィアのアッカデミア美術館名品展のイタリア側監修者でもあることもあって、今回の滞在中、5月18日前後に東京に所蔵される16世紀イタリア絵画、とくにヴェネツィア派絵画の実見調査を実施した。18日夕刻、国立西洋美術館では主任研究員の渡邉晋輔氏の応対により、収蔵庫および展示されている関連作品を調査し、また同館で開催中であったカラヴァッジョ展を見学した。カラヴァッジョとして展示された作品の中に明らかに同画家の作と認められない作品(1点は、近代の作品)を指摘するとともに、日本におけるイタリア展全般の同様の問題点に鋭い眼を注いだ。19日の東京富士美術館の訪問においても、同館所蔵のイタリア絵画の作者帰属の不確かさを同館関係者に述べるとともに、その根拠を同伴した東京大学大学院人文社会系研究科美術史学専門分野のイタリア美術を専攻する院生3名に教授し、かつそれぞれの研究テーマについても具体的な指導を行った。同夕方の貴財団美術財団賞授賞式後の懇親会席上では、かつてイタリア給費留学生として教授に指導を仰いだ柏智久氏(現、中央公論美術出版編集者)から、日本における美術研究書の出版事情についての情報を得た。その後のイタリア大使館公邸での夕食会では、ドメニコ・ジョルジ大使夫妻と関係イタリア人たちに、シンポジウム司会者とカラヴァッジョ展担当の川瀬佑介研究員を加えて、日伊美術交流について意見交換をするとともに、ヴェネツィア国立東洋美術館において、これまで担当した館長の退任に伴い、千点を超す日本美術品(ブルボン家のエンリコ・バルディ伯爵が日本において購入した作品)の保存管理と目録作業がますます遅滞することに対する危倶と日伊両政府機関ヘの支援(特に日本の専門研究者による調査)要請を力説した。また、20日には東京都美術館で開催中の若冲展を鑑賞するとともに、同館のイタリア展担当の小林明子学芸員と同館が予定するヴェネツィア美術展について情報交換し、かつ助言を述べた。マリネッリ教授は、東洋と縁の深いヴェネト地力の生まれで、かつ研究者としての経歴が美術館館長から、東洋ヘの歴史的な窓口であるヴェネツィアのカ・フォスカリ大学教授であることもあって、日本美術、特に伝統工芸ヘ強い関心があるため、滞在中に都内の日本美術展や美術館を見学し、また、時間的制約からまとめて日本の伝統工芸の状況を概観できる青山一丁目の「伝統工芸青山スクエア」を訪れた。― 513 ―

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