鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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8/16に、上述のギョルギェフスキ氏と会談し、8/28にスコピエ文化冷静遺産センター長ダルコ・ニコロフスキ氏、9/3、9/7、9/11にカッパドキア、ネヴシェヒル、ギョレメ屋外博物館長ムラト・E・ギュリュヤズ氏と会談し、今後の協力関係について検討した。また、当初の計画では、国立文化財保存研究所付属のオフリド・イコン美術館学芸部長ミルチョ・ギョルギェフスキ氏と共同でギリシア・マケドニアの調査を行う予定であったが、ギョルギェフスキ夫人が病を得て手術したため、共同調査は適わなかった。そのため、彼の助手とともに共同調査を実施した。研究内容に関しては、今回の貴財団の助成により、大幅な進展があった。筆者は「ビザンティン聖堂における儀礼化の展開」という課題の下、至聖所の図像プログラムがビザンティン時代を通じて、どのように変化してきたのかという問題を研究してきた。特に後期ビザンティン(13~15C)のプログラムには、中期(9~12C)までは稀だった副次的なキリスト伝図像が挿入され、複雑化・多層化する。筆者は既に「キリスト昇架」等の受難伝図像が増加した現象について、神学史・文学史的な観点から解明していたが、本調査に至るまで、「我に触れるな」等、復活後の場面まで増補された要因は説明できなかった。しかしながら、ギリシアの調査現場で出発前に読了したコンスタンティノポリス総主教ゲルマノス(8C)の典礼註解の一節を思い出し、これら至聖所に挿入された副次的なキリスト伝図像は、たとえ鳩が描かれていなくとも、聖霊の関与が著しい場面であることに気づいた。そこでゲルマノスの記述に照らして、調査対象国において中期と後期のプログラムを実地で比較した。その結果、14世紀以降、「聖霊降臨」や復活前後の場面を至聖所に配して、聖霊の活動を殊更に強調するプログラムが増加すること、「受胎告知」の鳩のように説話図像の一部ではなく、礼拝像的な聖霊像も増加することから、後期のプログラムが聖霊の働きを強調していると直観した。現在は、この着想をもとに次の研究ステージの構想を練っているところである。2.国際交流申請時に記したように、この度の海外派遣は単なる調査ではなく、将来的に海外の研究機関との協力関係を築くべく、それらの機関との事前交渉という側面もあった。この度の海外派遣では、マケドニアとトルコで今後の協力体制について大きな進展があった。A.博物館関連― 515 ―

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