鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
530/550

② 学際研究としての写本学─人文科学研究・教育の未来にむけて─期   間:2015年9月29日~10月10日(12日間)派 遣 国:フランス報 告 者:帝塚山学院大学 非常勤講師  田 辺 めぐみ今回の海外派遣では、写本学の学際的研究が果たしうる具体的な役割や、その教育へのより良き還元方法を探ることを主眼とした。これは、本報告者自身の研究・教育活動を一層実り多きものとするためだけではなく、西欧諸国で半ば日常的に行われている公募制の学際シンポジウムを一日も早く日本で定着させることで、人文科学研究の成果やそのダイナミズムをよりよく知らしめる一助となることを切望しているためでもある。以下に報告するのは多分野の研究者との交流や、研究活動の多様な在り方にかんして学んだ成果の一部でしかないが、今後それらを様々な形で活用していく予定である。かかる試みへのご理解・ご支援を賜った鹿島美術財団に、改めて厚くお礼を申し上げたい。1、メネストレル研究集会・総会筆者が2012年から日本部門を担当している中世関係ポータルサイト「メネストレル」は、年2回の研究集会と総会をフランス内外の高等研究・教育機関で開催している(注1)。今回はメンバーのAlbin Gautier氏が所属するオパール海岸大学で実施された。本学には歴史と文学をそれぞれ専門とする4名の中世研究者が在籍していることもあり、両分野間のさまざまな交錯や交流にかんして報告・論議することが望まれていた。主題は「歴史学者と文学者:中世学における分野間の境界」といささか漠然としたものであったにもかかわらず、明瞭な問題設定ゆえか領域横断型の研究にみる利点と問題点、そして異なる専門分野の史料にたいする様々な視座やアプローチ方法が主題やジャンル別に論じられ、非常に内容の濃いものとなっていた(注2)。翌日サン・トメール郡図書館で実施された総会では、メネストレルが運営するウェブサイトのより良きプレゼンテーションの在り方について議論された。また、サイト上で公表している学術情報が未だ十分に活用されていないという問題については、高等教育や研究はもとより中等教育(日本の中学・高等学校に相当)に寄与するための数々の提案がなされた(注3)。来年度のメネストレル総会・研究会は、リスボン新大学とリエージュ大学で開催される予定。― 518 ―

元のページ  ../index.html#530

このブックを見る