2、シンポジウム―Les troubadours: un art poétique et musical(於:サンジェール・ポリニヤック財団 )本シンポジウムでは、従来文献学者や音楽学者がそれぞれの専門性を生かして個別に研究を進めてきたトゥルバドゥールを、異なる分野間の連関を問いながら総合的に捉えることが目指されていた。それゆえに各発表は専門分野に特有の方法論や視座を打ち出すのではなく、主題を横断的・縦断的に検討することで、その新たな側面を浮き彫りにしていた。また、トゥルバドゥールのより忠実な再構築に挑む音楽学者・文献学者の共同研究を、音楽家との協力によって一般人向けのコンサートに結実させていたことからは、音楽の振興に特に力を入れているサンジェール・ポリニヤック財団を開催場所としていることの意義を確認せしめるものとなっていた(注5)。―Femmes à la cour de France (於:パリ高等学院)筆者はメネストレルの総会と国際研究集会「中世における文化交流」を2017年秋に日本で開催することを計画しているため、意義ある国際的学術交流のありかたを学ぶことを目的とした(注4)。残念ながら時間の制約ゆえに、研究発表や質疑応答を全て拝聴することは叶わず、各シンポジウムの全容を把握するには至っていない。しかし異なる主題・開催意図・方法のもとで営まれた下記の2つに参加したことは、開催場所や後援・協力団体を介した社会とのつながり、発表者や進行役・コメンテーターの選択やプログラムの構成を主題に即していかに決定すべきか等を具体的に学ぶ好機となった。フランスの宮廷に関する研究の振興を目的として創設された非営利団体Cour deFrance.frは、独自のサイトやニュースレター等で関連の学術情報を提供しているほか、国際シンポジウムをパリの高等学術教育機関において隔年で開催している。本年は「フランス宮廷の女性たち」を主題とし、様々な役割・立場で王家に仕える女性たちのありようや、周囲の状況などが15世紀末から19世紀の歴史・文学・美術を専門とする研究者たちによって論じられた。未だ十分に考察されていなかった主題の異なる時代に共通する要素と、時代が下るに従って豊富な関連資料から具体的に解き明かされる諸事項を比較・検討することができたのは、通時的な問題設定所以だろう。ただし当該シンポジウムで言及された時代がもっぱら16世紀以降であったことからは、中世の関連史料が圧倒的に不足している現状を再確認せざるを得なかった。― 519 ―
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