鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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4、展覧会―Jeux de mains(於:サン・トメール郡図書館)(注8)なお、当該シンポジウムは発表論集の刊行が予定されているほか、全内容を収録した映像が同会のサイトで公開される。また、2017年には「旅行・移動」を主題とするシンポジウムを予定。3、データベースFAMA(Fama Auctorum Medii Aevi)披露会(於:国立古文書学校)史料の電子化・データベース化が促進されている昨今、従来の伝統的な方法では不可能とされていた諸事項が、数量的な観点からの分析によって明らかにされているものの、その活用や評価は未だ文化情報学の領域内にとどまっている印象は否めない。そうした中でラテン中世において流布した作品の情報収集を目的とした文献史研究所のプロジェクトFAMA(注6)が、今後の関連研究にもたらす影響は甚大であるように思われる。未だ発展途上段階にあるとはいえ、すでに情報処理された作品群は現在まで留意されることのなかった写本へのアクセスを容易にするのみならず、それらを数値化することによって各作品の受容推移を長いスパンで辿ることや、作家やジャンル、制作年などの項目別や組み合わせ方法によって様々な調査が可能であるため、革新的な成果の創出が期待できる。なお、公開されている各写本データの訂正・補足事項は随時受付中とのこと。学際研究としての写本学の有益性は、学術成果を社会に還元する中でより明瞭に示されることが多い。その好例が展覧会であることに異論はなかろう。むろん知識なしには読解不可能な記述内容や、現実の世界を復元することを目的としていない図像や装飾を、そのまま西欧中世の社会や文化の理解につなげることは困難である。ただし多分野の視座を交錯させながらアプローチすれば、物言わぬ遺物にとどまることはない。本年はクレルヴォー修道院の創設(1115年)(注7)、アザンクールの戦い(1415年)、そしてフランソワ1世の戴冠(1515年)を記念する関連行事に伴い、多くの写本が様々な目的・方法に従って展示されている。筆者は以下の4つの展覧会を見学した。同図書館の蔵書を対象とした文献史研究所(IRHT)による調査成果を社会に還元する目的で企画された展覧会を、古書部門責任者でメネストレルのメンバーでもあるR.CORDONNIER氏の案内で見学した。写本の展覧会では色彩豊かな作例が扱われが― 520 ―

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