① ベラスケスの初期作品とカラヴァッジェスキの問題:17世紀初頭のセビーリャ画壇における「ボデゴン」画の成立、リアリズム、明暗描法の隆盛に、カラヴァッジョおよびカラヴァッジェスキはいかに関わったのか(もしくは関わらなかったのか)② ベラスケスとルーベンスとのライバル意識:フェリペ4世の宮廷において、対照的な気質や画風をもつこの2人の画家の複雑な関係は、いかにベラスケスの制作に影響を及ぼしたのか④ ベラスケスとレンブラントとの関係:両者の間に直接的交流はなかったものの、それぞれの代表作と目されるいくつかの作品の構図や画風には少なからぬ共通点が認められ、そこにバロック様式の本質を見出せるのではないか⑤ バロック絵画の日常性:ベラスケスやカラヴァッジョばかりか、レンブラント、洋美術におけるバロック絵画の全体像と、その後代への影響について考えることを主眼に企画、実現された。ベラスケス、カラヴァッジョ、ルーベンス、レンブラント、プッサンらに代表されるバロック絵画に関する学術研究は、我が国においても盛んであり、個別の地域や作家、作品をめぐって、あるいはバロック美術が地域や個人を超越して有する特性、すなわち現実世界への関心、ジャンルの多様化、演劇性、大衆性などをめぐっては、レベルの高い研究の蓄積が存在する。当該分野の第一級の研究者である本シンポジウム報告者の充実した業績は、その何よりの証左である。とはいえ、こうしたバロック美術研究の中で、個人・地域間の同時代的影響関係や後代への影響を機軸に、多方向からのアプローチを同時に試み、バロック絵画というものを包括的にとらえようとする機会は意外にもきわめて少ない。その意味において本シンポジウムは、大局的見地からのバロック考のための貴重な試みの場であったといえる。以下では、当日の進行に沿って各報告の内容と総合討議での議論の内容を要約し、本シンポジウムの成果と当該分野の研究上の意義について述べる。1.問題提起研究報告に先立ち、ベラスケス研究者である大髙保二郎氏(早稲田大学)より、ベラスケスを起点とした次のような問題提起がなされた。③2度のイタリア遊学中のローマにおけるベラスケスとプッサンとの関係:イタリアでのベラスケスの風景画制作や古代彫刻蒐集は、プッサンの影響を抜きには理解しえないのではないか― 523 ―
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