2.2014年度援助⑴海外派遣①在スイス日本絵画の調査3.総合討議おけるベラスケス受容の要ともいえるピカソによる《ラス・メニーナス》連作、ベラスケスの肖像画《インノケンティウス10世》を使ってシュルレアリスム的な人間の極限的不安の表象を探究したフランシス・ベーコン、スペインという国の社会と文化を批判するためにベラスケス作品から取ったイメージを利用したポップ・アート作家のエキポ・クロニカ、そしてベラスケス作品に自ら扮することを通して歴史、イメージ、個人的あるいは集団的アイデンティティの構築といった問題を提起する森村泰昌の「セルフ・ポートレート」である。研究報告の後、問題提起者である大髙氏と6人の報告者が登壇し、松原典子(上智大学)の司会進行によって1時間程度の総合討議が行われた。最初に大髙氏から各報告者に対して、個別の質問が投げかけられ、その回答を足がかりに報告者間、さらにはフロアの聴衆も加わってのディスカッションが展開された。個々の議論の詳細は割愛するが、そこで取り上げられたいくつかのテーマとしては、シンポジウム冒頭で大髙氏から提起された問題に加えて、17世紀におけるリアリズムの問題、バロック期の画家の自己表象と絵画の高貴さに関する問題、ルネサンス期以来の絵画における素描と色彩をめぐる議論、バロック絵画の近代性の問題などがある。いずれも西洋美術史研究における伝統的かつ根源的な問いであり、短時間の討論の中で議論を集約しうる性質のものではない。しかしベラスケスを起点としてバロック絵画とその近代への影響を広く視野におさめようとする試みの中で、こうした普遍的問題が改めて顕在化されたことにこそ、本シンポジウムの一つの意義を見出すことができるだろう。各報告者から提示された、個別の具体的問題をめぐる刺激に満ちた新知見や新たな解釈の可能性に対する更なる検証も含めて、バロック絵画とその近代への影響というテーマの探究が深化していく契機となったものと確信する。期 間:2015年9月9日~9月17日(9日間)― 526 ―
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