鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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2代文調(?~1820)は同じ尾張町の住人であり、ほかにも、恵美須屋の隣にあった「尾張町布袋屋正月店頭図」(ケルン東洋美術館蔵)や「駿河町越後屋正月風景図」(日本個人蔵)、「芝口松坂屋呉服店初売図」(ジェノバ東洋美術館蔵)など商家の店頭を主題とした類似作品の存在が知られる。派 遣 国:スイス連邦共和国報 告 者:早稲田大学 文学学術院 教授  成 澤 勝 嗣1.2015年9月10日(木) ベルン歴史博物館で日本絵画23件の調査をおこなう。同博物館の日本絵画コレクションは膨大で、今回の調査はごく一部のみにとどまった。調査資料のうち注目すべき作品は以下のとおり。○無落款「源平合戦図屏風」 紙本金地著色 6曲1双 江戸時代前期 狩野派右隻に一ノ谷、左隻に屋島合戦を配す。定型の源平合戦図と異なり、モチーフを減らして騒がしい戦闘場面を回避しており、合戦図としては静謐な趣きを漂わせる。松樹の形姿は狩野光信様式を示しており、桃山時代後期の狩野派の影響を色濃く残す古例である。○柳文調(2代か)「江戸尾張町恵美須屋初売り図」 絹本著色 1幅 江戸時代後期濃彩の大横物。尾張町2丁目、すなわち現在の銀座6丁目にあった恵美須屋呉服店の店頭風景。飾られた門松と上空の飛鶴により正月であることを表わす。恵美須屋は明治期に伊藤呉服店が買収して松坂屋となった。2013年に閉店した銀座6丁目の松坂屋はその跡地かと思われる。本図では看板や暖簾の文字に「尾張町二丁目恵美須屋」「□梅桟留 もめん類相改□□」「諸色相改大安賣仕候」「呉服物安賣 現金無掛値 尾張町恵美須屋」「まわた木綿 やすうりかけねなし をハり町ゑひすや」などと記される。落款は「柳文朝畫」に朱文方印「南柳斎」。箱書に「歳旦 恵比須屋初賣之景 柳文朝筆」と記し、箱側面の貼紙に「第七拾六号 柳文朝歳旦 金弐拾八目也」とある。○鈴木有年実信「七夕花扇使図」 紙本著色 1幅 江戸時代後期京都では、七夕の日に近衛家から宮中へ扇形の花束を献上する習慣があった。本図は先頭に宮中宛の書状を入れた文箱を持つ使いの女性が歩み、後方に花扇や日傘を持― 527 ―

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