鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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○Olga Dick 「菊籠に蟹図」「石榴に百合図」 紙本墨画・淡彩 2幅 近代9月11日(金) サンクトガレン歴史民族博物館で日本絵画12件の調査をおこなう。つ男性3名が従う。他に原在明や住吉弘定の作例が知られるが、画題としては珍しいものといえよう。落款は「有年実信毫」に朱文円印「東叡畫史」朱文方印「藤原」白文方印「實信」の3印を捺す。作者は天保7年(1836)版『江戸現在公廣益諸家人名録』に「画 有年 名實信 號一苗齋 鈴木司書 根岸中村」と記されているが詳細不明。○静江?「松鷹図」 絹本淡彩 1幅 江戸時代後期?作品自体は朝鮮の民間画人の作かと思われる大まかなものだが、軸端に巻きつけるように貼り付けられた3㎝四方ほどの小紙片が興味深い。龍頭船をデザインした印刷ラベルに「日本骨董売買所 横浜十六番及廿番デキン商会」「…N BROTHERS & CO… FINE ART GOODS №16 BUND & GRAND … YOKOHAMA 」〔…は判読不能〕と記されており、おそらくは明治期の横浜に日本古美術を輸出する貿易会社が存在したことを示唆する点で興味深い。手慣れた筆致で描かれた簡潔な南画である。サインのみは鉛筆で「O. Dick」と記される。彼女は神戸にあったスイス商社「Fabrik le Roche & Co. Basel in Kobe」の社員であったR.H.ディックの夫人であり、日本で南画を習得したヨーロッパ女性による本格的な作品として貴重である。本図は収蔵番号により昭和7年(1932)の収集品とわかる。○菱川宗理画・珍牛瑞岡題「幽霊(雪女)図」 紙本墨画 1幅 江戸時代後期青い目と青白い唇をした西洋人女性のような幽霊。薄墨でぼんやりと描写され、下半身は消えている。落款に「宗理画」と記し「完知」の白文円印を捺す。この人物は、寛政10年(1798)に葛飾北斎から宗理の号を譲り受けた菱川百琳宗理(生没年不明)と思われる。なお賛者・珍牛瑞岡(1743~1822)は熊本県天草出身の曹洞僧で、禅画の名手として知られる。○無款「幕末風俗図巻」 紙本著色 1巻 江戸時代末~明治期町人風俗のさまざまを描いた作品。画風から専門画家の筆によるとは見えないが、― 528 ―

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