鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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民族学史料としての価値はある。画中処々に文字の書き込みがある。登場する風俗は、巾着切り、「三国一あまざけ」売り、大工、「江戸町使 たよりや」=飛脚、おわいや、秋葉権現の火除け札売り?、シャボン玉売り、七五三参り、唐辛子売り、「翁あめ」売り、「養老みそ、ざぜんまめ、萬漬物品々」売り、花売り、「清書草紙」を持って手習いに行く子供など。○静菴李峯「アイヌ風俗図」 紙本著色 5枚 安政7年(1860)熊祭(イヨマンテ)をはじめとするアイヌの諸風俗を鮮やかな色彩で描き出す。自由奔放で素朴な作風は、専門画家とはかけ離れているものの力強く、好感が持てる。作者・静菴李峯については知るところがないが、1図に捺された「金城南一柳住」の印が探求の手がかりとなろう。この5枚とは別個に登録されている同一作者の「函館湊鳥瞰図」1枚も本来は一具であったものと思われ、そこに「安政七庚申末春」の年紀が記されている。なお同館には、これ以外に「弌□」の印を捺す紙本著色「アイヌ風俗図」が7枚(図中に留書あり)、また無款の絹本著色「アイヌ風俗図」2枚が所蔵されている。いずれも民族学の視点から収集されたものであろう。○伝月岡雪鼎画(無款)・事足亭廉和賛「雪梅美人図」 絹本著色 1幅 江戸時代後期瓜実顔が特徴的な上方系美人図の秀作。細緻な描写にすぐれている。大坂の美人画家・月岡雪鼎(1710or26~86)作という伝承は箱木口の貼紙によるものだが、妥当性は高いだろう。賛「積る雪また降るゆきのある中に ゆきの肌へのぬくしつめたし」の筆者事足亭については伝不詳。9月12日(土) 個人コレクター所蔵の日本絵画(チューリヒ大学寄託)7件の調査をおこなう。○谷文一「福禄図」 紙本墨画 1幅 江戸時代後期上方にコウモリ(蝙蝠)、下方に雄雌の鹿を描き、漢字の音通で「福禄」を表わす謎語画題。輪郭線を用いない簡単な作品だが達筆であり、作者の技量の高さが窺われる。作者・谷文一(1786~1818)は宮津藩医・利光澹斎の二男として江戸薬研掘で生まれ、文晁の長女のぶの婿となったが32歳で世を去った。調査資料はこちらの文一の遺品と思われるが、実は彼の息子もやはり谷文一と名のって画家となり(2代文一、― 529 ―

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