鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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全体を指揮することとなった。日本側にはアシスタントとして熊澤弘氏(当時、東京芸術大学大学美術館助教、現在、武蔵野音楽大学講師)も加わった。出品リストを作成し、美術館との本格的な交渉を始めたのは約3年前にさかのぼり、国立西洋美術館を始め、公立、私立を問わずフランス近代絵画を所蔵する日本の主要美術館、さらに企業や個人のご協力を得て、2015年秋に実現することになった。展覧会の趣旨本展の主たる目的は、専門家を除き欧米では未知の領域に留まっている、日本所蔵の19世紀中葉から20世紀初頭にいたるフランス近代絵画の優品を展示することである。バルビゾン派、印象派からポスト印象派、ナビ派まで、すなわちコロー、ミレー、クールベ、マネ、モネからルノワール、セザンヌ、ゴーガン、ゴッホ、ボナールまで、その多彩な流れを作品を通して示すことができた。しかしながら、本展にはそれ以外にも2つの重要な柱が組み込まれている。ひとつは、このような日本のコレクションがどのように形成されたのかという歴史的な経緯を紹介することである。日本が大きな経済発展を遂げた19世紀中葉から両大戦間の時期に、松方幸次郎や大原孫三郎など日本の実業家たちは、欧米のコレクターたちと肩を並べる素晴らしいコレクションを作り上げた。さらに、第2次世界大戦後にも経済の発展と歩調を合わせるように、いくつもの重要なコレクションが形成されていった。展覧会では松方や大原を始めとする主要なコレクター、さらに重要なフランス近代美術コレクションを所蔵する美術館(国立西洋美術館、大原美術館、ブリヂストン美術館、ひろしま美術館、東京富士美術館、ポーラ美術館、吉野石膏コレクションなど)を紹介することによって、日本におけるコレクション形成史を示したのである。もうひとつの大きなテーマは、日本美術とフランス美術との交流史にほかならない。19世紀半ばの日本の開国以来、浮世絵版画がヨーロッパに渡り、フランスの印象派、ポスト印象派の画家たちに衝撃を与え、彼らの藝術の大きな養分となったことは、いわゆるジャポニスム(日本趣味)としてよく知られている。他方、ジャポニスムにやや遅れて日本にも西洋絵画が根付き始める。得に19世紀末から20世紀初めにフランスに留学した黒田清輝とその弟子たちがフランス絵画の外光派アカデミスムや印象派の様式を和学人に移植したのである、浮世絵版画から印象派へ、印象派から日本近代洋画へという双方向的な日仏美術交流の歴史もまた、本展で協調している要素であり、日本でこれほど印象派絵画が好まれるのは、両国の美意識のつながりが濃厚であ― 534 ―

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