鹿島美術研究 年報第33号別冊(2016)
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るのも大きな理由だと説明できる。また、近代日本における印象派評価に関して、リヒャルト・ムーテルやユリウス・マイヤー=グレーフェなど同時期のドイツの美術史家の著作が影響を与えていたことを踏まえて、彼らの関連著作も展示物に付け加えた。このように、浮世絵版画、印象派絵画、日本近代洋画の美的な共鳴、交換を明確にするよう全体の展示構成に配慮した。したがって、この展覧会が画期的なのは、ヨーロッパでは知られていない日本の優れたフランス近代絵画コレクションがより豊かに形成されたことを示すことにもある。それこそが本展の歴史的な意義にほかならない。展覧会の制作日本の通常の展覧会とは異なり、本展の主催、共催には国際交流基金のような公的機関や、新聞社・テレビ局のようなメディアがまったく入っていない。日本における出品交渉は三浦が主に美術館、熊澤氏が主に企業コレクションを担当し、薩摩氏の協力のもとに行い、日本国内の輸送に関しても薩摩、熊澤両氏が日本通運と連携してすすめた。ドイツにおける輸送、展示、宣伝、図録制作などのマネージメントはすべて芸術展示館が行った。ただし、日独の慣習や考え方の相違が多少の問題を惹起したことは否定しない。そして、展覧会に関係する費用はすべてドイツ側が支出したが、これは当然のように見えて、日本が関係するこれまので海外展覧会では稀な例に当たるだろう。会場構成と作品展示に関しては、基本的に本展のチーフ・キュレーターである三浦がマルクス=ハンセン氏と議論しながら決めていったが、フランス近代絵画の流れ、日本のコレクション形成史、日仏美術交流史、以上3本の柱をいかに組み合わせるかがポイントとなった。通常の印象派展にはない豊富な内容を、予備知識のないヨーロッパの観衆に分かりやすく伝えるために、部屋割りと展示順とパネル説明を慎重に定め、展示現場の状況、判断も加味して完成させた。最終的に、近代フランス絵画77点、彫刻10点を中心に据え、さらに日本とのつながりを示す意味から、浮世絵版画19点(ジヴェルニーのモネの浮世絵コレクション)、フランス絵画の影響を受けた日本近代洋画19点(主に東京芸術大学のコレクション)にその他の資料を加えて構成されている。このような内容の展覧会は、ドイツのみならず欧米でも初の開催となるが、日本においてすら同様の構成の展覧会を開くことは容易でないレベルに達したと思う。― 535 ―

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