本展覧会にはドイツ語版と英語版の2種類のカタログが準備された。ドイツ語版は芸術展示館が、国際市場のための英語版はドイツの出版社プレステルが主体となって編集し、プレステル社から出版された。Japans Liebe zum Impressionismus[Japanʼs Love for Impressionism], Prestel, 2015. 日本が深く関係しているにもかかわらず、残念ながら日本語版のカタログは制作されなかったが、当初はドイツ語版のみの予定だったのを英語版の制作を日本側が強く提言して受け入れられたのは、幸いであった。ちなみに、英語版のカタログは、Financial Timesの2015年度ベスト・ブック(アート部門)に選ばれている。ただし、カタログに関してもうひとつ問題がある。欧米の読者への分かりやすさを配慮するあまり、必ずしも実際の展示内容を忠実に反映しておらず、展覧会からややずれた構成になっているのである。そのため、国際展の貴重な経験として日本語で独自の展覧会報告書を作成し、今後の美術振興に資するような記録として残す必要があると判断した。会場構成図や会場写真を含む詳しい日本語報告書を作成し、関係各所に送付する予定である。そのために、展覧会を終了時に再度見学・調査し、展示の実態を写真撮影し、日独の関係者で展覧会全体を総括する機会を持つことにしたのである。展覧会の成果展覧会が終了した翌日の2月22日に行った最終会議で、今回展覧会の総括がなされた。ドイツ側からヴォルフス館長、スピース事務局長、アンネン展覧会事務担当、ゲスト・キュレーターのマルクス=ハンセンが出席し、日本側からは三浦、薩摩、熊澤の3名が出席した。今回の展覧会は大成功であったと美術館は判断していた。入場総数124,964人という数字は、人口30万人の小都市ボンで開催された条件を考えると当初の予想を超えていて、特に宣伝や口コミが行き渡った2月に入ってからの伸びは著しかったという。むろん、ボンだけでなくケルン、デュッセルドルフ、フランクフルトなど近隣の諸都市やオランダ、フランスなど他のヨーロッパ諸国からの訪問者もいたし、またボンでは3回、4回と訪れるリピーターもかなりいたとのことであった。遠方からの見学ツアーも100回以上企画され、ガイド付きの見学会も繰り返し行われたとのことで、ドイツ側も宣伝・広報に大変力を入れていたことがわかる。他方、展覧会のコンセプトが理解されたかどうかについては、美術館に寄せられた展覧会入場者の感想・コメントから判断するかぎり、通常の印象派展とは異なる日本― 536 ―
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