線的なデザインだが、椅子の脚は「猫足家具」として知られるルイXV世の様式を思わせる。ソファーの上の部分はわずかに曲線を描いているが、棚の細部では直線が支配的である。壁には渦巻き形の装飾が確認できる。室内の各装飾はヴァン・ド・ヴェルドの様式そのものであるが、それらは各々独立しており、オルタに見られるような建築と家具が一体となった空間のコンセプトは見当たらない。このコンセプトをオルタはいつ、どのように発展させたのか。1894年、オルタは《タッセル邸》の室内装飾に着手し始めた。IRPAに保存されている写真によると、サロンの扉は長方形で、その付近に置かれた椅子の背は蝶の形である〔図3〕。それらは同じ形ではない。翌年、彼は《フリソン邸》に取り掛かった。IRPAに保存された食堂の写真には、向かって右側に二つの扉が写っており、それらの角は丸められている(注12)。奥には暖炉があり、上には同様に角が丸められた鏡がある。ここでは建築と家具の結びつきが見られるものの、やや控えめである。しかし、1896年に着手された《ヴァン・エートヴェルド邸》の室内装飾には、それがはっきりと現れている。食堂の食器棚の小さな柱は、蔦のように絡まっている。食器棚の周りの壁には、蔦が描かれている。壁画の下の木製装飾パネルには、蔦のモティーフが施されている。また、食卓の椅子の背の角は丸められている。その後ろにある扉の下部に彫られた四角形は、この椅子と同じく角が丸められている。要するに、1894年、オルタは建築に合わせて家具を自分で手がけ始めたが、1896年以降はそれだけに満足することなく、建築と家具がより強く結びついた住まいを設計し始めたのである。5.椅子の制作年の特定本稿では、《タッセル邸》の椅子の制作年を取り上げる〔図1〕。この椅子を取り上げる理由は、建設年をもとに椅子の制作年を見ると、オルタが最初にデザインした椅子と考えられるからだ。また、蝶や花びらを思わせる背は、オルタの典型的なデザインで、彼は少しずつ変化を加えながら、このデザインを繰り返し使用した。IRPAに保存されている写真から、この椅子が《タッセル邸》のサロン用に制作されたことがわかっている〔図3〕。《タッセル邸》の建設は1893年に始まった〔図4〕。1894年9月14日には住むことができるほど建物はほぼ出来上がっており、依頼主のエミール・タッセルは、1897年の竣工を待たずして入居した。『覚え書』の1894年の欄には、「タッセル邸の書斎の机」と記述があるため、この年からオルタが家具制作に取り掛かったとみられる。『覚え書』によれば、オルタは同じ年にサロンの設計を始― 104 ―― 104 ―
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