鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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両側にイルカが描かれている〔図6〕。また、セコビリケスの貨幣独自のパターンとして、男の顔の横にイルカと穂の両方が描かれているものが8枚あり〔図7〕、三日月が顔の横に描かれているものが6枚ある〔図5〕。騎馬像の方では、セコビリケス、ルティアコス、メトゥアイヌムの貨幣は全て槍を携えたものだが、コントレビア・ベライスカの貨幣には、槍を携えているものの他に穂を持っているものが8枚ある〔図8〕。また、コントレビア・ベライスカの貨幣は馬の後ろ足が全てくの字型になっている(注26)。4、ケルトイベリアの貨幣の特徴ケルトイベリアの貨幣に共通している、男の顔と騎馬像という図像の組み合わせは、ケルト以外の貨幣にも見られるものだが、ケルトの貨幣にもっともよく見られるパターンであり、その点ではケルトイベリアの貨幣はケルトの要素を色濃く残していると言うことができるだろう。それを踏まえた上で、ケルトイベリアの貨幣の大きな特徴は、その統一性である。本稿で見てきたように、男の顔と騎馬像という図像の組み合わせが共通している上、図像の細部にヴァリエーションがあるものの、その表現も騎馬像に関しては、アレコラタの貨幣の場合、手に携えているものが槍、剣、穂という3パターンと、馬の後ろ足が真っ直ぐか、くの字型かの2パターンの組み合わせの6パターンであり、その表現パターンはごく限られている(注27)。また、アレコラタはケルトイベリア中北部、セコビリケスは南西、コントレビア・ベルは東部とそれぞれ離れているにもかかわらずこのような統一性が見られることは、ケルトイベリアにおける文化の均一性を示唆するものかもしれない。例えば、ガリアのアルウェルニ族の貨幣と比較してみるとこの点はより顕著になる。パリのフランス国立図書館所蔵のアルウェルニ族の貨幣は600枚強だが、図像のパターンは、ケルトイベリアのもの同様、男の顔と騎馬像の他に、裏面に描かれている図像だけでも、動物(鳥、四足獣など)、武具、楽器、車輪、容器、植物文様、幾何学文様の7種類に分類されている。その他にも武装した男の顔と立像など、1部族の貨幣だけでもケルトイベリアの貨幣よりはるかに多彩な図像表現のパターンを示している(注28)。さらに、男の顔と騎馬像の組み合わせだけを見ても、ケルトイベリアの貨幣が男の顔、騎馬、ともに右向きで統一されているのに対し、ガリアの貨幣は顔や騎馬の向きは様々であり、表現のヴァリエーションに富んでいる。このような貨幣の統一性は、ケルトイベリアだけでなく、ケルトイベリア周辺のイ― 126 ―― 126 ―

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