鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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注⑴ わが国では、古代ケルト人に関する研究自体が極めて乏しいが、古代ケルトの貨幣に関する研究は、九鬼由紀「ケルト社会における貨幣の機能」『人文論究』第66巻第3号、2016がほとんど唯一のものである。⑼ 古代のイベリア半島および、フランス南西部で用いられていた文字。アルファベットとは異な⑵ 例えば、Jacobsthal, P., Early Celtic Art vol.1, Oxford: Oxford University Press, 1944(rep.1969), p.V, p. 163など。明示されてはいないが、イベリア半島出土の碑文に用いられた独自の文字やケルト、カルタゴ、ギリシア、ローマなど様々な文化の流入により形成された造形美術の独自性などが、イベリア半島が「特殊」とされた理由と思われる。⑶ Untermann, J., Monumenta Linguarum Hispanicarum I, Wiesbaden: Dr. Ludiwig Reichert, 1975.⑷ Vives, A., La moneda hispanica 2vols., Madrid: Reus Madrid, 1924-1926.⑸ Villaronga, L., Corpus Nummunm Hispaniae ante Augusti aetatem, Madrid: Jose A. Herrero Numismatica, 1994, その後、2002年に増補改訂版が出版され、さらにそれをもとにした改訂版がVillaronga, L.&Benages, J., Ancient Coinage of the Iberian Peninsula, Barcelona: Institut dʼestudis Catalans, 2011として刊行されている。⑹ スペイン出土のギリシアの貨幣のカタログとしては、Asins, C.A.&González, A.A., Sylloge nummorum Graecorum España 3vols., Madrid: Ministerio de Educación, Cultura y Deporte. Área de Cultura, 1994-2005がある。⑺ トゥリアス(Turiazu)の銘のある貨幣の中、660枚がGozalbes, M., La ceca de Turiazu, Valencia: Diputación de Valencia, 2009に収録されている。⑻ Lorrio, A.J., “El armamento de los celtíberos a través de la iconografía monetal”, García-Bellido, M.P.&Centeno, R.M.S. (eds.), La moneda hispánica ciudad y territorio, Madrid: Centro de Estudios Históricos, Dpto de Historia Antigua y Arqueología, 1995, pp.75-80.馬は前足を跳ね上げたりはしていない。これらの騎馬像は、馬のポージングなどに貨幣の騎馬像との共通性が見られる。さらには、このタイプの貨幣が現れてくる紀元前2世紀という時期は、ローマがケルトイベリア戦争(紀元前155-133年)とルシタニア戦争(紀元前155-139年)という2つの戦争に勝利し、イベリア半島の大部分がローマの勢力下に入り、ローマの影響力が増してくる時期であり、そのことを考慮するならば、この地域の人々が騎馬像にアイデンティティを見出していたことを示唆している可能性は高いと思われる。今回の調査ではMAN所蔵のケルトイベリアの貨幣を対象としたが、ケルトイベリアの貨幣は今回調査したものが全てではなく、特にアレコラタと並んで重要とされるトゥリアスの銘のある貨幣は今回直接調査することができなかった。また、マドリード以外のコレクションも今回は調査することができなかったため、本稿で扱ったケルトイベリアの貨幣は全体のごく一部にすぎない(注32)。従って、上記の展望については、今後より多くの史料を調査し、検証していく必要があるだろう。― 128 ―― 128 ―

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