注⑴ 近年、歴史学研究においても、辺境の地とされてきたアルプス地域が、文化と人間の交わる活動的な場として捉え直され、学際的な研究が活発となっている。Cf. 佐藤公美編『アルプスからのインターローカル・ヒストリー―〈地域〉から〈間地域〉へ』佐藤公美研究室、2016年。⑵ Thomas Szabo, “Via Francigena”, Lexikon des Mittelalters, Band 8, München: LexMA-Verlag, 1997, Sp. ⑶ イタリア各地のゴシック聖堂に関する研究として、例えば以下。Astonio Muñoz, “Monumenti dʼarchitettura gotica nel Lozio”, Vita dʼarte. Rivista mensile illustrate. Dʼarte antica e moderna, Vol. 8, Fascicolo 45, Settembre 1911, pp. 77-103; Angiola Maria Romanini, Lʼarchitettura gotica in Lombardia, I, Varese-Milano: Casa Editrice Ceschina, 1964; Paola Lorenzi, Architettura tardo-gotica in Liguria occidentale, Diss., Facoltà di Lettere e Filosohia, Università Cattolica del Sacro Cuore, 1971.⑷ Romanini, Lʼarchitettura, 1964, p. 278.⑸ Carlo Tosco, “Lʼarchitettura religiosa nellʼetà di Amedeo VIII”, Architettura e insediamento nel trado medioevo in Piemonte, (eds.) Micaela Viglino Davico, Carlo Tosco, Torino: Celid, 2003, p. 71.⑹ Cf. Tosco, Architettura e insdediamento, 2003; (eds.) Enrico Castelnuovo, Giovanni Donato, Enrica Pagella, Elena Rossetti Brezzi, Arte del Quattrocento nelle Alpi occidental. Percorsi dellʼarchitettura e della pittura murale, Torino: Skira, 2006; (ed.) Claudio Einaudi, Corso quadriennale di arte sacra cuneese. Vol. 2. Gotico (Quaderni N.9), Cuneo: Provincia di Cuneo – Assesorato alla Cultura, 2005.⑺ 本稿で扱うことができなかった作例として、ポンテクオーレのサンタ・マリア・アッスンタ聖堂、ロッサナのマリア・ヴェルジネ・アッスンタ聖堂、キヴァッソのサンタ・マリア・アッスンタ聖堂などがある。作例の収集の際、19世紀に行われたゴシック風の改築ではないか注意を1610 f.が考慮されている。15世紀末になると、ルネッサンス様式の到来を予感させる、やや尺の短い鋭角のギーベルを左右のキールアーチ型ギーベルと調和させたサルッツォの作例、もしくはアルプス以北の造形様式に再度影響を受けたと考えられる、長尺で極めて鋭角のギーベルを三つ並べたランヴェルソの作例など、ピエモンテゴシック建築様式とその他の建築様式との折衷様式も登場する。しかしアオスタの作例に見られるように、キエリで生まれた新様式は、ルネッサンス建築様式が伝播する16世紀初頭まで、多くのヴァリエーションを生み出しながら、この地で中心的な建築様式であり続けた。本稿で考察した西正面のギーベルは、ピエモンテゴシック建築様式を特徴づける中心的な建築モティーフだが、型押し煉瓦による洗練された帯状装飾や、尖頭アーチ状の上辺と上方に弧を描く下辺から成るテュンパヌム等、その他にも注目すべき建築モティーフが確認されている。今後もピエモンテゴシック聖堂建築の調査を継続し、より精緻な様式展開の記述を目指すことで、南北両文化の狭間に位置するアルプス地域の文化的特質を明らかにしていきたい。― 168 ―― 168 ―
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