以上の❶❷❹❺は李亨禄の冊架図にも当てはまるが、❸は冊巨里に関する指摘であるため、冊架図において確認することにする。まず❶の根拠として多くの研究は、遠近法と陰影法について記述しているが、実は描かれる対象の大きさがもっとも重要な要因になるように思われる。例えば、実物として大きさのばらつきが少なく、全冊架図の中で共通して現れるモチーフである筆立て(筆が挿されている状態)の大きさを測ると、凡そ20cmから30cmの間の大きさであるため、実物の大きさに近いことが分かる。花や果物を描いた場合でも実物の大きさと変わらないし、大きさのばらつきが多い陶磁器でも極端に大きかったり小さかったりするものがない。したがって、すべての冊架図は基本的に実物の棚を描くことを試みたように思われる。❷の点では、李亨禄の冊架図は3段もしくは4段構成であるが、他の冊架図も⑰㉚㉛㉞㉟以外同様である。❸は冊巨里に関する分類で、冊架図のモチーフに固有の分類ではない。そこで、冊架図のモチーフを分類すると次の5つに分類することができるように思われる。第一は、数冊の本を包んだ帙、表紙が分厚い書冊、巻物など、文人が読むべき書籍類である。第二は、筆、硯などの文房具と、花瓶、盤などもっぱら中国製と思われる陶磁器で、文人が書斎で常用する器物類である。第三は、隠遁した文人を意味する躑躅、神仙に類した高潔な人物を意味する水仙のように文人の属性を表す花類である。第四は、孔雀の羽、腹を上に向けてひっくり返った形の鯉など立身出世を願う置物類、多幸を願う仏手柑、子孫繁栄を願う石榴などの吉祥的な果物類である(注6)。第五は、これらを収める棚そのものである。ただし、すべての冊架図がこれらのモチーフを全て描くわけではないし、これらのモチーフと違った種類の器物を描くものもある。例えば作品⑨⑬⑭㉚は上記の第三の花類を描いていないし、㊱㊲は珍しく書物だけをモチーフとして描いている。一方、㉛~㉞と㊴㊵は他の冊架図には確認できない花や、果物を描いており、㉝には朝鮮時代に高級品であった防寒帽までも描いている。中には㉟㊳のように、伝統的に聖なる動物として認識されてきた虎、鹿、龍、獅子、麒麟を書物と組み合わせて描くことで、奇妙な雰囲気を演出する異質な冊架図もある。しかし、全体的に見れば、上で記した5種類のモチーフが共通して描かれており、モチーフの形も共通するものが多い。❹の点では、李亨禄のものと違って吉祥的なモチーフを多く描いているものは、❸を確認するところで説明したように、㉛~㉞と㉟、㊳~㊵のみである。❺の点では、李亨禄の冊架図によく登場するモチーフが他の⑦~⑯の冊架図にも登場する。モチーフの種類だけではなく、大きさ、シルエット、細部の模様、色合い、彩色方法までもっとも似ているため、同じ粉本を使ったものもしくは李亨禄の自身の手によるもののようにさえ見える。― 176 ―― 176 ―
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