鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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禄の作品ではないことを暗示しているように思われる(注8)。いずれにせよ、それ以外の李亨禄の冊架図は、一直線の消失軸を画面の中央で画面内に分布させることによって、左右の視線を中央に集め、奥行き感を増加させるだけではなく、観者の目の位置を明確にさせる効果がある。この特徴は、李亨禄の冊架図が当時「精密さと迫真性」があると謳われた要因の一つであると思われる。❺は、2扇分が失われている可能性があるため、消失線の幅が小さいという指摘は必ずしも正確ではない。❻は、〔表1〕による限り誤りである。以上のことから、一直線の消失軸を画面の中央で画面内に分布させるという点、李亨禄が「精密さと迫真性」があると謳われた要因であり、他の冊架図との違いについて説明できる特徴である。しかし、わずかな数ではあるが、3点の他の冊架図にもみられる特徴であるから、正確にいうと、李亨禄の冊架図だけにみられる特徴とは言えない。もっともそのうちの2点、作品⑦⑧は、李亨禄の冊架図と同じ粉本を共有している可能性があるように思われる。第5章 陰影法冊架図の陰影法に関する研究も、もっぱら李亨禄の冊架図を対象としたもので、従来4つの点が指摘されている❶モチーフに輪郭線を描かない⒢⒣。❷影(shadow)の表現はしないものの、多くの器物において、明るい部分が光の当たる部分として、暗い部分が陰(shade)として描き分けられる⒝⒢⒣。❸明部から暗部へ滑らかに移行するグラデーションの技法を用いる⒢⒣。❹ 李亨禄の作品③④が陰影法においてもっとも巧である⒜⒣。以上の❶~❸は、李亨禄の冊架図以外にも確認できるが、❷❸は、その技法の出来栄えから見ると、李亨禄の冊架図は、他のものと一線を画す。また、❷は、十分ではない。というのも、李亨禄の器物の明暗表現は、次の3つに分類できるが、屏風の中央を基準にして、左右に分けて観察すると、③類のうち、左側にある器物の明部はすべて左に、右側にある器物の明部はすべて右に描かれているからである(注9)。①類:明暗を描き分けることなく、均一に彩色するタイプ〔図4〕②類:明暗を描き分けるが、光の方向を示さず彩色するタイプ〔図5〕③類:明暗を描き分けるとともに、光の方向を意識するタイプ〔図6〕例えば、屏風の左側にある首の長い磁器〔図6〕と右側にある蓋のある磁器〔図― 178 ―― 178 ―

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