7〕を比べてみると、一目瞭然であり、冊架図の多くの割合を占める書物でも、画面の左に置かれている本は右の側面が暗く、画面右に置かれている本は左の側面が暗い。さらに筆立てに入っている筆の表現〔図8〕や香炉の脚、玉壁の台〔図9〕、時計が掛かっている珊瑚〔図10〕に施す白色のハイライトが施されてこのルールが守られている。このことは、李亨禄が左右に二つの光源を設定し、モチーフに光と陰を施していることを意味する。この特徴が他の冊架図にも確認できるかを調べるために〔表1〕に、①類②類③類の割合を示した。なお、③類の数字の横に括弧で示した数字は、このルールを守らない割合を示したものである。李亨禄の冊架図の場合、⑥以外①~⑤は(0)と示されており、全ての作品がこのルールを守っていることを意味する。一方、⑥のように(5)と示しているのは、全体のモチーフの内、5%がこのルールを守っていないことを意味する。その結果、③類の数値が50%を超えかつルールを守るもの((0))は、①~⑤だけである。さらに、❸の点でも、①~⑤は、器物の形に添ってグラデーションを付けるため立体的に見える〔図11〕し、ハイライトも他の冊架図〔図12〕と違って、グラデーションの中に溶け込むようにつけるためより自然に見える〔図10〕。以上のことから、李亨禄の①~⑤が、光源を意識し、巧みなグラデーションとハイライトをつけることによって他の冊架図とは異なる迫真性をもたらしたといえよう。ちなみに、❺の点は、光源を意識して彩色するモチーフの数だけで確認するなら、微妙な差ではあるが確かである。おわりに本稿では、18世紀に西洋画法の受容とともに描かれるようになった冊架図に焦点を当て、宮廷画員であった李亨禄の冊架図が当時「精密さと迫真性」があると謳われた理由について、形式・技法、モチーフ、遠近法、陰影法において他の冊架図と比較分析することで考察を行った。その結果、形式・技法、モチーフ、遠近法においては、「精密さと迫真性」の要因になる工夫が仕掛けられていたが、他の冊架図にも確認できる特徴であった。しかし、陰影法においては、李亨禄の①~⑤だけが光源を意識し、グラデーションとハイライトのつけ方も巧みであることによって「精妙さと迫真性」があると高く評価されたことになるだろう。なお、このような作品は、管見の限り朝鮮絵画史には類例がない。朝鮮絵画において李亨禄の冊架図がどのような位置づけにあり、なぜ李亨禄だけが光源を意識して陰影法を用いることが可能であったかの問題については今後の課題にする。― 179 ―― 179 ―
元のページ ../index.html#189