鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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⑱ 明治期から昭和初期における「書道史」形成史─「美術史」形成と比較して─研 究 者:都留文科大学 非常勤講師  柳 田 さやかはじめに本研究は明治20年代から昭和10年代までを対象として、「美術史」と共に形成された「書道史」の史的展開を考察するものである。近代日本の美術制度史研究は1990年頃から盛んとなり、以後、「美術」概念や「美術史」の形成史に関する研究が進行してきた(注1)。「書」に関しては、近世までの「書画」という枠組みが「絵画」と「書」に分離し、「書」は「美術」から除外されたと指摘されている。これまで、「書」と「美術」の関係性に関心は示されてきたが(注2)、体系的な考察は十分には成されていない。「美術」の境界にあった「書」の史的展開を考察していくことは、「美術」概念の形成と揺らぎを探る指標となり得る点で重要である。また、「美術」との関係を主軸に「書道史」形成を再考していくことも意義深いと考える。そこで本研究では、単著・雑誌・全集の出版に焦点を当て、「書道史」と「美術史」の形成を比較しながら、「書道史」形成の段階的特徴を明らかにする。研究の方法として、以下のような時期区分を仮設し、この区分が可能であるかを検証していきたい。 Ⅰ期 明治20年代~明治30年代 Ⅱ期 明治40年代~大正初期 Ⅲ期 大正10年代~昭和20年筆者はこれまで、小杉榲邨による「書道史」形成(注3)や、文部省師範学校中学校高等女学校教員検定試験(以下「文検」)習字科における「書道史」導入(注4)に関する研究をおこなってきた。本研究では、これまでの研究に加え、特に『書苑』(明治44年)と『書道全集』(昭和5-7年)の刊行経緯を中心に考察を深めたい。1 「書道史」形成の萌芽(Ⅰ期)1-1 「美術史」形成と「書」まず、明治20、30年代の「美術史」形成における「書」の位置を確認していきたい。主な出版物は〔表1〕に整理している。帝国博物館は明治20年代から館の事業として「日本美術史」の編纂を進め、『稿本日本帝国美術略史』(明治34年)を刊行した。当時、博物館が携わっていた宝物調査― 184 ―― 184 ―

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