鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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纂修者は比田井天来、岩田鶴皐、尾上柴舟、河井荃盧、中村不折、野本白雲で、顧問は当初伊東忠太、関野貞、黒板勝美、佐々木信綱、内藤湖南が務めた。彼らは全員、法書会の会員であった。編集を主に担当した野本は、「世界美術全集が発行された時書道も其の仲間入りをすべきものと思つて居たが省略されたのでこれは当然別巻として二冊位に上下三千年日本朝鮮支那の代表的作品を収めるべきものと思つて居た」と語り、『書道全集』の刊行は「書道の振作とか大衆化とかその外いろいろの意味に於て大いに喜んだ」と述べている(注28)。この『書道全集』の刊行により、書学はさらに進展を遂げた。各巻の「概説」は〔表2〕にまとめている。各論としては、大きく理論研究・作品研究・書人研究に分かれ、特に、古文字、金石、古筆、印等の分野で成果があった。また、拓本を始めとした新発見・未発表資料の掲載も充実していた。例えば、木簡は石田幹之助が、瓦当、塼、封泥等は中国や朝鮮で実地調査をおこなった関野貞が成果を反映した。石碑は実物写真を掲載すると共に、拓本はなるべく旧拓を選択して(注29)全套本と共に原寸大文字を掲載した。総論としては、第24巻に中国・韓国・日本の「書道史」をまとめて一冊に収録した点が特筆される。「支那書道史」は野本白雲、「朝鮮書道史」は工藤文哉、「日本書道史」は尾上柴舟が執筆している。特に「朝鮮書道史」は「今日迄朝鮮書道史と銘を打つて世に出た本が、たゞの一冊もない中」で「六百枚書き下し」まとめ上げたものであった(注30)。また、「和様書道史」は尾上の各巻「概説」をまとめたもので、古筆を中心に説明した。尾上はその後も、『日本書道史』(昭和5年)、『和様書道史』(昭和9年)を精力的に刊行している。このように、『書道全集』の刊行は、それ以前の各論・総論の研究成果を結実させると同時に、新たな研究成果も多く上げることとなったのである。同時期、雄山閣からは『書道講座』(昭和5年)が刊行された。書法の実技と合わせて、「書道史」等の理論が説かれている。執筆者に注目すると、樋口銅牛、高田竹山、岡山高蔭、阪正臣、大口周魚、中村不折、尾上八郎、石井雙石等は『書苑』と『書道全集』の執筆に携わっており、その段階的な発展が窺える。他にも全集や法帖が数多く刊行され、「書道史」の普及は急速に図られた。おわりに本研究では、「美術史」と比較しながら、近代日本における「書道史」の史的展開を跡付けた。各章を総合すると、Ⅰ期からⅢ期までは以下のような段階的特徴がある。― 190 ―― 190 ―

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