鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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(2)清凉寺像版木(3)清凉寺像版本流の時期が重なっているため、一蝶は釈迦像を実見せずに、出開帳と関係する版本を参考に本作を描いたと推測している(注13)。後述するが、今回の調査の結果、やはり元禄13年の出開帳で頒布された御影の画像を典拠にして、一蝶は同作を制作した可能性が極めて高いことが明らかとなった。なお、現在は一蝶の菩提寺である承教寺所蔵であるが、同寺に奉納されたのは戦後であり、それ以前の来歴は不明である(注14)。清凉寺像をあらわした版木二面が同寺霊宝館に保存されている。以下、それぞれ版木(ア)・(イ)とする。まず版木(ア)は高143.7cm、幅53.5cm、厚2.5cm~2.0cmで、版面向かって左から幅13.8cm(左)、25.8cm(中央)、13.5cm(右)の3枚の縦板を継いで1つの版木としている。中央に光背・台座を完備した正面向きの清凉寺像をあらわす〔図3〕。像高は約80cm。版面向かって左下部に「嵯峨五臺山清凉寺」の銘が刻まれ、右下部には高18.5cm、幅3.2cm、深0.9cmに刳られた竪孔がある。また、現状の面部および脚部の一部は彫り直しがされているようで、頭頂から三道下までの面部全体と、脛から両足先までの部分は不規則な六角形の埋木が嵌め込まれている。制作時期については後述したい。つぎに版木(イ)は、高137.8cm、幅50.5cm、厚さ1.8cm~2.5cmの一枚板であり、上下部に水平の補強材を足している〔図4〕。版木(ア)と同じく中央に正面向きの像高約80cmの清凉寺像をあらわしている。釈迦像の図様は(ア)と基本的に似ているが、頭髪や面貌、足甲など細部の形状が異なっている。また、版木の状態は(ア)と比較すると新しい。さらに、本版木の釈迦像は現在寺内で参詣者向けに頒布している版画および印刷画像と全く同じ図様であった。坂輪氏によればその原本は塚本善隆氏の住持時代に作成されたという(注15)。本版木がこれに該当するとみられる。神奈川県立金沢文庫に清凉寺像をあらわした版本二点が現存する。一つは称名寺所蔵で金沢文庫保管のもの(以下、称名寺本)、いま一つは金沢文庫所蔵(以下、金沢文庫本)のものである。どちらも画面中央に光背・台座を具えた清凉寺像を正面向きにあらわしており、一見するとよく似ているが、面貌や脚部の表現に違いがあり、版木が異なるとの指摘が既にある(注16)。まず称名寺本は、本紙縦132.5cm、横57.5cm、像高約80cm〔図5〕。画面右下に「嵯― 216 ―― 216 ―

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