鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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のことが、図巻作成の意義と利用に関する若干の示唆を与えるかもしれない。鳥獣の知識と書物(A)(B)に登場する鳥は1種1~3図で、注は種名と細部の色指定に関わるものが多い。姿態は千差万別でバリエーションの豊富さを意識的に示すようだが、分類はなされず具体的な注もない(注2)。第一には種の描き分け、特に彩色指示を重視すると考えたい。先述の通り(A)は線描や彩色が精緻で、毛描を意識的に加える傾向がある。注も同様で体色に加え、毛描の色をしばしば指示する。種名は全てではなく、適宜付される。一方いくつかの鳥獣には、より踏み込んだ情報が記され注意を惹く。例えばコウライウグイス(A)の風切羽には「シワウノクマ、タカ羽ニワ無」とあり〔図8〕、タカと比較しつつ模様の特徴を示す。詳細不明の小禽ながら尾羽の付根に小さく赤点を打ち、「ヲス毛赤シ」として性差を指摘する■ニコウ(※以下、■は判読不能文字を表す)(B)も興味深い〔図9〕(注3)。種の表記法も注目され、カナ和名に漢名が併記される鳥獣があり、うち4点には複数名称が付される。相   鳥[サウネンテウ・サウシテウ]啄木鳥[テラハトキ・テラツ〃キ]・   ・   木[テラツ〃キ]列+鳥■+阝   [ウソ]・   [同]・   [同]・鷽[同]鳥+進鼠狼[イタチ]・鼬[イタチ]※   囲いの文字は異体字で、左を偏、右を旁とする。[ ]内カタカナは読みがな表記を表す。以下同様。これらの書きぶりは、鳥獣の同定や分類にあたって画人が典拠とした資料の性格を示唆する。例えば中世日本で知られた鳥類書として、中国・晋代の師曠『禽経』がある。中世の陰陽道儀式の呪文(「若杉家文書」所収、京都府立京都学歴彩館蔵)に師曠の名が現れる他、15世紀の禅林で活躍した万里集九による『梅花無尽蔵』には題八〃鳥図子野禽経に名載らざるも、宣和御殿に各(名の誤記か)多く評せらる…[後略](文明14年(1482)頃、巻一)思+念畢+鳥嘯+鳥― 269 ―― 269 ―

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