またやや特殊な情報を含む次の図も、何らかの観察資料に基づくと考えてよいかもしれない。サンサイ(B)②: 詳細不明、ただし尾羽、下腹羽毛の部分図と注がある/部分図は全図の一部拡大でなく正対して描かれ、羽毛の被覆範囲など細かな知見を記す〔図11〕■ニコウ(B)④: 詳細不明、ただし尾羽の部分図を含む/雄は尾羽付根に赤点があることを指摘〔図9〕イタチ (A)⑨:素描風の筆致で、動物に珍しい側面観で表す〔図10〕上記以外の図に実物観察や写生の影響がどれほど含まれるかは微妙な問題で、描写が全く不正確な鳥は転写と判明するが、ある程度正確な種については判断が難しい。例えば目周りを除いて頭部が漆黒のセグロセキレイ〔図12〕は狩野松栄「四季花鳥図屏風」(山口県立美術館)や同「秋冬花鳥図」に登場するなど、16世紀中葉の狩野派でなじみの鳥であったようだが、セキレイといえばハクセキレイを描くことの多い東洋絵画にあっては珍種である。セグロセキレイは日本固有種に近い鳥で、その図は恐らく確かに日本の画人が観察して得たと思われ、鎌倉時代中期の年紀が添う日本最古の花鳥写生図とも伝わる伝藤原長隆「花鳥草木写生図巻模本」(東京芸術大学)にも描かれる(注7)。現在抄出の2次、3次模本のみ知られるこの写生図巻については現実に存在したのか、あったとして実物はどのようであったかなど留意点が多いが、セグロセキレイの観察と絵画化が中世に遡るとするならば、「鳥類図巻」の図像源もより古い日本の写生図であったかもしれない。似た事例、すなわち日本で実物観察や写生を通じ新規に得られた図、あるいは舶載の中国画等に例がありつつ、日本で再度観察による検証を経た図は他にもあると思われ、「鳥類図巻」に有形無形の影響を与えている可能性がある。天正4年の(C)画人が、古くから東洋で表現され図像も豊富なオシドリやマガモ等について改めて観察にふみきったのも、表現の習熟だけでは得られない何らかの検証の必要に迫られたからであろう。図巻で写生に関わった画人達はカケス (A):趾の部位の長さモズ (C):瞳の色、風切羽の長さ、尾羽の羽先の色オシドリ(C):嘴-喉-胸の色味、喉の羽毛の細さと色、雄の下腹の毛色― 272 ―― 272 ―
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