鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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(9)【目連】図像: ①釈迦に対面する僧、②阿鼻地獄の門前で女と対面する僧、③犬と遭遇する僧、④法会を行う僧、⑤昇天する女。先行収録文献: 『仏説盂蘭盆経』(注17) 『仏説浄土盂蘭盆経』(注18) 『仏説目連救母経』(注19)内容:目連は釈迦の助力によって、地獄、餓鬼道、畜生道に転生する母を救い出す。目連が釈迦の教えに従い盂蘭盆斎を設けて衆僧に施すと、犬に転生していた母は終に女身に戻ることができ忉利天に転生した。鷹巣純氏は、極楽寺本では上記5つの図像によって目連が六道を転生する母を救い出す、目連救母説話が表されるとする(注20) 。以上描かれた9つの説話はいずれも因果応報による堕地獄譚であった。しかしその内容には特定の尊格へ収斂していくような信仰は読取れず、雑宗的な傾向が窺える。但し、多少の異同はあるが、不信心の者を主人公として堕地獄から蘇生の過程で追善や施福の功徳、或は仏教を信じることそのものの功徳が示され、最終的には仏法へ帰依するという話柄が選択されているようである。改めて全体を眺めてみよう。極楽寺本には十王が生死を支配する六道という世界の枠組みが示されている。その中で転生する母を追う目連の説話は、六道世界は命が転輪する場であることを印象付けている。目連は六道を回す大きな歯車であると同時に、亡者供養の功徳をも語る図像である。目連を背骨としてほかの説話図像も追善や施福などの功徳を様々に語り、最後には仏法への帰依へと帰着する。極楽寺本を目にし、内容を語られた者も、追福、施福、信心の必要性を感じたことだろう。2.極楽寺本の典拠さて、ここで極楽寺本の図像選定の際に参照されたと思しき文献について検討を試みたい。既に挙げたように、各説話図像に対して複数の文献が典拠候補として挙げられた。論者は、その中でも唐代の『法苑珠林』と遼代の『三宝感応要略録』や真福寺本『戒珠往生伝』が典拠として参看されたと考えている。なお目連の説話のみは先述の3つの経典に依拠し、説話集由来の図像とは性格を異にする。これについては別稿で述べたいと思う。― 284 ―― 284 ―

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