㉚ 美術館教育活動の記録化とその歴史的変遷に関する研究研 究 者:福岡市美術館 主任学芸主事 鬼 本 佳代子目黒区美術館 学芸係長 降 旗 千賀子フリーランス 前 田 淳 子はじめに2008年、目黒区美術館と全国美術館会議・教育普及研究部会の共催にて行われた「フォーラム・連続公開インタビュー 美術館ワークショップの再確認と再考察-草創期を振り返る」は、美術館の教育普及に携わる職員、研究者が大いに注目するフォーラムとなった。というのも、1990年代に大きな盛り上がりを見せた「美術館における教育普及活動」が、とうとう「振り返り」の時期に来たのか、ということに加え、1990年代に先立ち1970年代、つまりは美術館が地方にまで建ち始めた時期から、教育普及活動に尽力してきた先駆者たちがいよいよ退職の時期を迎えたという感慨と危機感を感じさせるものだったからだ。実際、本フォーラムを企画した降旗は、このフォーラム開催の理由を「世代交代が始まっている昨今、いわば草創期に活躍していた方々が持っている経験という財産を、次世代に伝達するために、ちょうど中間に位置する私たちが、記録に残しておかねばならないという、使命感をひしひしと感じたからにほかなりません」(注1)と述べている。この「使命」を引き継ぎ、翌年は全国美術館会議・教育普及研究部会と京都造形芸術大学主催で、「第2回フォーラム・連続公開インタビュー 教育的視点から見た関西の美術館・博物館の普及事業-草創期を探る」が開催される。その後も教育普及研究部会では、継続的に先駆者たちへのインタビューを行っており、2015年現在、17名の美術館関係者、参考として自然史系博物館担当者およびアーティスト各1名のインタビューを実施した。本研究は、このインタビュー調査を引き継ぐ形で行うものである。ところで、美術館における教育普及活動は既に振り返りの時を迎えるほどに定着してはいるが、未だ学問領域を形成できるほどに成熟はしていない。美術館教育そのものを分析・考察し、歴史的に俯瞰する研究はほとんどないと言ってよい。本研究は、インタビュー調査を引き継ぎ、その活動の記録化を目的とするだけでなく、それらを分析・考察し、どのような変化があったのか、また通底する理念とは何なのか、その歴史的変遷を明らかにすることも目的とする。― 317 ―― 317 ―
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