鹿島美術研究 年報第34号別冊(2017)
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か、ということも語られた。この指摘は、教育担当者も感じるところであり、なぜそうなっているのか、教育活動だけでなく、美術館経営からの分析も必要かと思われる。3)佐藤厚子氏(元・美術館教育研究会メンバー)へのインタビュー場所:目黒区美術館日時:2017年2月14日(火)インタビュアー:降旗千賀子、鬼本佳代子佐藤厚子氏は、1980年代、アメリカに2年留学し、そこで美術館教育を学んだ。帰国後、「美術館教育研究会」を主催する。本インタビューでは、「美術館教育研究会」の活動の実態と、佐藤氏が見た当時の美術館の教育普及活動の状況について伺った。佐藤氏によると、1980年代後半、オハイオ州立大学で美術館教育を学んでいた頃に、当時横浜美術館にいた石井優子氏に声をかけられたのが「美術館教育研究会」を主宰することになったきっかけとのこと。「日本の美術館では、ワークショップは盛んだが、ギャラリートークなどはほとんどやっていない、なのでそれを一緒にやろう」ということで始まったそうである。このあたりは、長田氏のインタビューとも一致しており、1980年代からの、いわゆる美術館における教育活動の中心がワークショップであったものに、さまざまなギャラリートークの手法が加わって行き、やがて「鑑賞教育」という考え方ができていく経緯が見えてきた。この「美術館教育研究会」は、インタビューによると、佐藤厚子氏、石井優子氏、家村珠代氏、清水靖子氏、岩野雅子氏によって立ち上げられた (注5)。この会は、1989年11月から活動を始め、1990年より年3回の会報を出すほか、時に研究会やシンポジウムも行っていたが、会報をVol.8まで出した後、CD-ROMの形でVol.9をだし、そこで実質的に解散となった。しかし、これらの会報には研究会やシンポジウムの報告の他、海外の教育活動の事例も多く紹介されており、資料的価値は高い。また、CD-ROMには、北海道立近代美術館、宮城県美術館、いわき市立美術館、栃木県立美術館、埼玉県立近代美術館、板橋区立美術館、世田谷美術館、東京都写真美術館、東京都美術館、練馬区立美術館、目黒区美術館、横浜美術館、富山県立近代美術館、名古屋市美術館、滋賀県立近代美術館、兵庫県立近代美術館、高松市美術館、北九州市立美術館の1969年から1994年までの教育活動の記録がデータとして収納されており、これもまた資料的価値が高いと言えよう(注6)。しかし、出版当時は、全く反応がなかったとのことであり、会の活動についても、それほど反応があったという記憶はないとのことであった。― 321 ―― 321 ―

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